半導体の重要性は近年増すばかりですが、大量の半導体を必要とする生成AIの普及により、政治的にも経済的にも一層の注目を集めることになりました。今や一個人にとっても、半導体についての知識はビジネスや投資で成功するために欠かせないものとなっています。
この連載では、今年1月に新たに発売された『新・半導体産業のすべて』の一部を抜粋・編集し、【3分でわかる世界の半導体企業】として紹介していきます。今回は、TSMCやサムスン、エヌビディアに押され、王者の地位から陥落しつつあるインテルについて解説します。

IntelPhoto: Adobe Stock

復活の戦略、「IDM2.0」は不発に終わるのか?

インテル
売上高 511億9700万ドル(2023年)
従業員 12万4800名

 1968年に設立されたアメリカのインテル社は、マイクロプロセッサ(CPU/MPU)を中核とする半導体最大手のIDM企業です。同社は、パソコンやデータセンター用のMPUを軸に業績を伸ばし、「半導体業界のリーダー」たる地位を築いて来ましたが、2020年を境にしてその地位に陰りが見え始めました。

 その背景には、サーバー分野でAMDが伸びてきたこと、モバイル向けCPU分野でアームに後れを取ったこと、GAFAMなど大手ITメーカーが専用CPUを自社開発し始めたこと、最先端プロセスの開発・量産でTSMCやサムスンの後塵を拝したことなどが挙げられます。

 状況を打開すべくインテルは、「IDM2.0」のスローガンを掲げ、抜本的改革のため2つの戦略を打ち出しました。その一つが「5N4Y」と呼ばれる、4年で5つの新プロセスを立ち上げ、TSMCやサムスンに追いつくという目標です。具体的には、2021年にインテル7、22年にインテル4、23年にインテル3、24年にインテル20A、25年にインテル18Aとなっています。ここでAはA(0.1nm:オングストローム)を意味します。

 もう一つは、IFSと呼ばれるファウンドリー事業の拡大で、2030年までにTSMCに次ぐ世界第2位になるという目標です。結局IDM2.0は、①先端プロセスで自社製造(Core、Xeon、Gaudiなど)、②委託生産(TSMCへLunar Lake 2CPUなど)、③他社先端プロセス品の受託生産の3つからなっています。

 このように、革新的戦略を打ち出しているインテルですが、2024年9月までの3か月間の最終決算で2兆5000億円の赤字と1万5000人を超える従業員削減を発表しています。主な原因はファウンドリー事業の不振です。

 そんな中、2024年9月17日には「インテルが受託生産を分社化する」というニュースが飛び込んできました。最先端工場に膨大な投資をしながら大口受託ユーザーを十分確保できない懸念から、分社化することで外部からの資本導入も考えざるを得ない事態に追い込まれている、と思われます。さらにデータセンター用AI半導体ではエヌビディアに大きく水を空けられ、MPU(CPU)でAMDの猛追を受ける中、王者としての巻き返しがなるか、今後の動向に目が離せません。

菊地正典(きくち・まさのり)
1944年樺太生まれ。東京大学工学部物理工学科を卒業。日本電気(株)に入社以来、一貫して半導体関係業務に従事。半導体デバイスとプロセスの開発と生産技術を経験後、同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。2024年7月から内外テック(株)顧問。著書に『入門ビジュアルテクノロジー 最新 半導体のすべて』『図解でわかる 電子回路』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(日本実業出版社)、『半導体・ICのすべて』(電波新聞社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。