半導体の重要性は近年増すばかりですが、大量の半導体を必要とする生成AIの普及により、政治的にも経済的にも一層の注目を集めることになりました。一個人にとっても、今や半導体についての知識はビジネスや投資で成功するために欠かせないものとなっています。
この連載では、今年1月に新たに発売された『新・半導体産業のすべて』の一部を抜粋・編集し、「3分でわかる世界の半導体企業」をコンセプトに紹介していきます。今回は、半導体製造装置の売上でASMLとトップを争う「AMAT」について解説します。
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半導体製造装置の売上でASMLとトップを争う
売上高 265億1700万ドル(2023年)
従業員 3万4000名
AMATは1967年に設立された世界最大の半導体製造装置メーカー(カリフォルニア州サンタクララ)です。
半導体製造装置の他に、FPDや太陽電池の製造装置のリーディングカンパニーでもあります。特に成膜装置(CVD、PVDなど)やCMP装置では世界トップの座を占めています。2024年第3四半期には、AIや5G対応需要が牽引して過去最大の売上を記録しています。
半導体製造装置全体のシェアでも、オランダのASMLと常にトップ争いを演じています。2社については、AMATが露光装置を除く前工程のほとんどの分野をカバーしているのに対し、ASMLは露光装置1本に絞っているという大きな違いがあります。
AMATの特徴は、ファウンドリーとの連携を深めることで「装置導入、立ち上げ、メンテナンス」に至るまで、広い業務を請け負っている点です。これによって、AMATにとってはコネクテッドな製品(インターネットに接続されたIoT製品)やサービスを提供できること、TSMCなどのファウンドリー企業にとっては装置の早期立ち上げと安定稼働が期待できることなど、win-winの関係を築いています。
同社に関する最近の技術話題としては、2nmノード以下の微細銅配線によるエネルギー効率の向上、EUVでダブルパターニングに替わるパターンシェービングによる低コスト化、短工期、品質向上、ウシオ電機と共同で2μ対応チップレットやヘテロジニアスインテグレーション向けデジタルリソグラフィ装置の開発などがあります。
AMATは2013年に東京エレクトロンとの「世紀の統合(業界1位と2位)」を発表しましたが、アメリカ司法省の承認が得られず、2015年には中止に至りました。
さらに同社は2019年に日立系で拡散炉に長じたKOKUSAI ELECTRIC(国際電気)の買収を発表したものの、中国の独占禁止法当局が承認せず、こちらも2021年には計画を断念しています。
また最近、アメリカ政府の半導体製造装置の対中輸出禁止を巡る連邦当局の捜査の中で、AMATは米国政府の許可を得ずに製造装置を中国のSMICなどへ輸出していたことが判明。それが原因か否かは定かでありませんが、チップス法に基づく政府補助金が却下されたようです。
1944年樺太生まれ。東京大学工学部物理工学科を卒業。日本電気(株)に入社以来、一貫して半導体関係業務に従事。半導体デバイスとプロセスの開発と生産技術を経験後、同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。(社)日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から(株)半導体エネルギー研究所顧問。2024年7月から内外テック(株)顧問。著書に『入門ビジュアルテクノロジー 最新 半導体のすべて』『図解でわかる 電子回路』『プロ技術者になる! エンジニアの勉強法』(日本実業出版社)、『半導体・ICのすべて』(電波新聞社)、『「電気」のキホン』『「半導体」のキホン』『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『史上最強図解 これならわかる!電子回路』(ナツメ社)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。