税務調査の本番は「午後」
税務調査は朝10時から午後4時くらいまで1日かけて行われます。朝10時から12時くらいまでが午前、1時間休憩をとって午後4時前後まで行われます。午前中は外堀を埋めるような質問ばかりです。納税者は「何なの? こんなこと聞いても税金関係ないでしょ」と思うようなことばかりですが、後々を埋めるための質問です。そして午後に入り、核心的なことを聞いてきます。
具体的に見ていきましょう。午前中は亡くなった方の生い立ちや趣味、性格、金銭感覚、亡くなる直前の状況が質問されます。生い立ちは亡くなった方がどこで生まれて、どういう会社に勤めて、結婚して亡くなりましたという流れです。趣味や性格、金銭感覚についても聞かれます。
相続の勉強をしている方なら「趣味を聞くのはゴルフ会員権の申告漏れを探るためでしょ」と思うかもしれません。確かにそれもありますが、もっと深い意味があります。実際の調査で何回か聞いた質問として「お父さんはゴルフをやっていましたか? ギャンブルはやってないですよね?」があります。納税者が「うちの主人はギャンブルなんてしません」と答えたら、これが調査で大きな要素になることもあります。
注意! 税務署の職員が使う「嘘を見破る質問術」
性格、金銭感覚で「亡くなったお父さんは人にお金をあげるような性格だったり貸すような性格だったり、お金遣いが荒い方でしたか?」などと聞かれ、「うちの主人は倹約家だったので人にお金をあげたりもしないし、お金遣いも慎重な人でしたよ」と答えたりします。
亡くなる直前の状況については「心苦しいことをお聞きしますが、亡くなる直前はどんな状況でしたか? 病院ですか?」と質問されます。そのときに奥さんが「主人はがんとずっと闘っていて病院で…」と話すこともあります。
午前中にこういったことを聞かれ、午後になると「不明出金の行方」について聞かれます。税務調査が行われる際、税務署は、亡くなった方の過去10年分の預金通帳をチェックしてから来ます。
そこでいきなり「亡くなったご主人がA銀行のB支店で●年●月●日に300万円おろしてますが、このお金はどこにありますか?」と聞いてきたりします。ほかには家族間の資金の移動、「お父さんから子供や奥さんに●月●日に200万円を送金されていますけど、これは何ですか?」などのピンポイントの質問をしてきます。
例えば、不明な出金として「現金でATMで300万円をおろしていますが、これはどこにいきましたか?」と聞かれたとき、午前中に「お父さんは金遣いが荒くなかった、人にお金をあげたりしないし、ギャンブルもしない」と言っていたらどうでしょう。「だったら、その300万円はどこいったの?」という話になります。「どこにもないなら、タンスの中にあるの?」と疑われるわけです。
家族間での資金移動も「子供にお金をあげるような性格じゃなかった」と午前中に言ってしまうと、「子供の通帳に入っているお金は、実質的にはお父さんのお金だったんじゃないですか?」と言われることもあります。午前中に答えたことが午後の核心的な質問で言い逃れできないように外堀を固められてしまうわけです。
「本当にわからないこと」を聞かれた場合は「本当にわからない」と答えるのはOKです。家族だからといってすべて知ってるわけではないからです。ただ、「わからないとは言わせませんよ」という状態に持っていくのが調査官の上手さです。
例えば、亡くなる直前のお金の引き出し。葬儀に必要なために引き出す方が多いですが、この引き出しによって預金残高が少なくなった状態で申告する。亡くなる直前にお金を引き出したのが、もし亡くなる前から意識不明だったお父さんではないなら、誰が引き出したのか。もし相続人が引き出したなら「お金はどこにありますか?」という状態になりますね。「わからない」とは言わせない状況にもっていかれることが多いです。
絶対NG! 嘘を言うのはやめましょう!
さらに、税務署の職員は知っていることをあえて質問して、嘘をついているかどうかをチェックすることがあります。答えを知っているにもかかわらず質問して、嘘つきかどうかを調べるわけです。嘘をついてしまうと重加算税の対象になり、35%から40%の追徴課税になります。追徴課税になった人のうち、およそ14%の方が重加算税を課されています。税務署も重加算税を取ると大きな成果になるのか、取りたがる傾向があるように感じます。こういった面もあり、相続税の税務調査を甘く見るのは本当に危険です。
年末年始、相続について話し合った方もいらっしゃるかと思います。ぜひ参考にしてください。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・追加加筆を行ったものです)