恋愛感情と性欲は連動しないし
友情と恋愛感情は違わない、かも。
森山 ただこの概念も、今振り返ってみれば「性とか愛とか恋とか」についての特別な関係しか扱っていない。「すごく大事な友人」の話は入ってこないんです。このあたり、執筆当時にはアロマンティックとかアセクシュアル(編集部注:他者に対して性的欲求や恋愛感情を抱かないセクシャリティ)とかクワロマンティック(編集部注:他者に抱く好意が恋愛感情か友情か区別しない・できないこと)といった言葉を知らず、「とりあえずゲイなら性か愛か恋はあるよね」と思っていた私の限界だと思います。恋愛感情と性欲は連動しないとか、友情と恋愛感情は当然違うものなんて言えないとか、そういう現在の感覚を持ってみると、また違う研究ができたのかなあ、なんて思います。
能町 そうか、まだ研究が進んでいない分野なのかもしれないですね。私には、自分がずっとピンときていない恋愛というものを世間がずっともてはやしていることにどうも腹立たしさがあるし、そんなに楽しいんなら私もその感覚を知りたかったよ、という悔しさみたいなものもあります。

森山至貴、能町みね子 著
恋愛がピンとこないってことは、恋愛がテーマとなるエンタメ作品も全部ピンとこないってことなんですよ。たとえば、恋が叶わなくて寝込むほどに悩み苦しんだ、とか、好きな人を取られて燃えるような嫉妬心が湧いた、みたいな描写があると、私は白けちゃうんですよね(笑)。なんだそりゃ、って。ああ、恋愛について語るとなると、どうしても「自分の違和感」ばかり語っちゃいますね。一般論が語りづらい。
森山 今のお話を伺うと、私の博士論文に関しては、私自身が性にも愛にも恋にも「ピンときちゃう」側の人間だったからああなったのかなあ、などと思ってしまいます。私は逆に「一般論が語れすぎ」ですね。
編集者 能町さんは恋愛の延長上にはない「結婚」をされていて、パートナーの方とお互いに恋愛は自由に、と決めているのでしたっけ。
能町 そうですね。結婚と称して、まったく恋愛対象とは呼べないサムソン高橋さんと同居していて、お互いに「不倫OK」「結婚の外で恋愛するようにしよう」ということにしてます。でも、言ってるだけで、私はまるでなんにもないです(笑)。