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現在の日本の婚姻制度は、「性愛の要素を含んで1対1で成立しているカップルが素晴らしい」とされている。しかし、今の制度には平等性への疑問が残る。なぜ友達同士で結婚してはいけないのか?新しい「結婚」や「家族のあり方」について、森山至貴と能町みね子が語る!※本稿は、森山至貴・能町みね子『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ 性と身体をめぐるクィアな対話』(朝日出版社)の一部を抜粋・編集したものです。

友達同士で結婚する?
『最小の結婚』について

森山至貴 2019年に日本語訳が刊行された『最小の結婚―結婚をめぐる法と道徳』(エリザベス・ブレイク著、久保田裕之監訳、白澤社)という本がありますが、この本のなかに出てくる概念に、アマトノーマティヴィティ(編集部注/現在は「恋愛伴侶規範性」と訳されることが多い)というものがあります。

 日本語に訳すと性愛規範性。(性別の組み合わせに限らず)性愛の要素を含んで1対1で成立しているカップルが素晴らしい、それこそがいい生き方だみたいな考え方を指します。この本のなかでは、アマトノーマティヴィティがよくないなら、結婚制度を組み替えて、友達同士が1対1でも結婚できるようなタイプの制度に変えちゃえばいいのではと書かれています。

能町みね子 あ、それは、私がやっていることとすごく近い。

森山 そうですね。「なんで友達同士で結婚しちゃいけないの?」と言いますか。『最小の結婚』の面白いところであり議論を呼ぶところは、「じゃあそもそも結婚制度をやめればいいんじゃない?」っていう方向には行かないところなんです。

 本のなかでも、その正当化に言葉を費やしています。「結婚やめちゃえば」って言うかもしれないけれど、そんなことをしたら教会や結婚産業が狭い「結婚」のかたちを自由に決めてしまえるので、不平等は解決しませんよ、とかですね。なるほどと思うと同時に、でもやっぱり結婚制度はいらないのでは、とも思ってしまいますけど。

能町 2017年、アイルランドで、同性愛者ではないふたりが同性同士で婚姻、結婚した例がありましたね。年の差がある友人同士で、年下の方は経済的に苦しくホームレスの経験もあり、年上の方は介護が必要な病気になり、お互いに助け合うかたちで暮らしていた。

 年上の方は年下の友人に家を残してあげたいけれど、このままだと相続税がかかって、結局手放すことになる。そこでまた別の友人が「結婚すればいい」と助言したらしくて。ふたりにとって都合がいいから「結婚」とする。結婚制度というものがあるからみんな結婚という手段を取らざるを得ないところはありますが、これはまさに最小の結婚ですよね。