1冊の本を読むのに人よりずっと時間がかかる。「速読」なんてできない。読みたい本がたくさんあるのにどんどん積読山が高くなる……。
新刊『いい音がする文章』を上梓した元「チャットモンチー」ドラマーの作家&作詞家・高橋久美子さんも、そんな「遅読家」であるようです。でも、だからこそ楽しめる本の読み方があるのだと言います。本書から、その部分を紹介します。(構成・写真/ダイヤモンド社 今野良介)
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本を「音」で読む人
読書は好きだけれど、私は読むのが遅い。
美術館に行っても、友人と一緒に見はじめたはずなのに、入り口にある「ごあいさつ」のところですぐ抜かれるし、城では解説をじっくり読んでいると1時間は遅く出ることになって、友人は外でアイスを食べて待つはめになる。
みんなどうしてそんなに速く読めるんやろ? 「斜め読み」できる人なんて、私にとっては魔法使いである。
友人たちとこのことを話し合ってみてわかった。どうやら私は、頭の中で文字を音に変換してから理解しているようなのだ。
目で文字を追いかけながら、もうひとりの私が脳内で音読してくれている。合う文体のときは、すらすらと。馴染まないときは、おっとっと……何回もつまずきながら。
みんなそうだと思っていたけど、どうやらそうではないんやね。友人や夫は「文字を視覚でとらえたら音に変換されることなく頭に入っている」と言うから驚いた。運動神経と同じく、感覚が個体個体で違うというのは当然のことかもしれない。
探してみると、私と同じく脳内で音に変換されている人も結構いるではないか。勝手に「音派」と名付けているみなさんは、一様に読むのが遅かった。そして、それをコンプレックスに思っているようだった。
そんなふうに思う必要はまったくありませんよ。むしろ、みんながしていない別の読書体験ができているに違いないもの。コツをつかめば速読だってできるのかもしれない。けれど、文章のリズムを楽しむことこそ読書の醍醐味ではないだろうか。
私は言葉の意味や情報だけ得たいのではなく、文の流れの美しさや、音の響きも味わっていたい。むしろ「音派」の読書のほうが楽しいよとおすすめしたいわけです。
たしかに、視覚派の人が1ヵ月に10冊読めるとしたら、私は5冊しか読めません。ええなあここのリズムと思ったら、線を引いて何回も繰り返し読むし、合わないときは好きなところだけ読む偏食っぷり。
それでもいいじゃないか。
自由なのだから、好きに読めばいいのよ!
(おわり)