「部署名」をどう呼ぶかで、“考えの浅さ”がバレてしまう理由とは?
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。
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「部署名」をどう呼ぶかで、“考えの浅さ”がバレてしまう理由とは?
組織であれば、いろいろな部署がある。特に大きい会社であれば、なおさらだ。
わたしが20年以上前に通信会社に8年間在籍していたときに日本で所属していた部署の名前は下記のとおりだ。
研究開発部第二開発部門
無線ネットワーク開発部
人事育成部
国際推進部
MM企画部
プロダクト&サービス本部ユビキタスサービス部
正直、部署名だけでは一般の人にはなにをやっているか想像もつかない部署もあるだろう。
いずれにせよ、これらが典型だが、部署名はその会社に特有の行間を反映したものが多く、社外の人から覚えにくいものであることが多い。
そしてわたしのケースもそうだが、同じ仕事をしていても組織再編などで部署名が変わったりするので、一層、社外の人からは覚えにくくなっている。
戦略コンサルの駆け出しだった頃、このような部署名が複雑だった会社にいたわたしは「部署名は複雑だし、すぐに変わるからちゃんと覚えるのは無理だ」という感覚を持っていた。しかし、これは間違っていたと後々に痛感することになる。
「杉なんとかさん」と言っているのと同じだよというフィードバック
駆け出しの頃のあるプロジェクトでのことだ。クライアントのプロジェクト事務局とのミーティングで、事業の課題把握のために次にインタビューする先を相談していたときのことだ。わたしは広告宣伝を担当している部署にインタビューしたいと考え、相手にこう伝えた。
「広告宣伝をご担当している部署の方にインタビューさせていただきたいのですが、いかがでしょうか」
相手は「そうですね、そうしましょうか」と答えるものの、なんとなくピンときていないようだった。
そんなときに、わたしの横で同席していたマネージャーが「『マーケティング部』のプロモーション担当の方にインタビューさせていただけますでしょうか」と一言発した。
わたしにしてみれば全く同じような意味だったが、相手への伝わり方は全く違うものだった。
「ちょっと待って、『マーケティング部』ってことは◯◯部長になるよね。いやぁ、あそこは最後にインタビューするのがいいかも。◯◯部長は警戒心が強いので、こちらが情報武装してからじゃないと、なかなか本音を喋ってくれない気がするから」
そんな反応だった。わたしが「広告宣伝をご担当している部署の方」と伝えたときには出なかった反応が、マネージャーが「マーケティング部」と伝えたときには出たのだ。
そのミーティングからの帰り道に、わたしはマネージャーからフィードバックを受けた。
「杉野さんが今日言っていた『広告宣伝をご担当している部署の方』って言葉は、杉野さんに向かって『杉なんとかさん』と呼んでいるようなものだよ。『杉なんとかさん』と呼んでも、自分事化できないだろうし、そもそもそう呼んでいる人ってなんか自分のことをちゃんと考えてくれていない印象を持たない?部署名もそれと同じで、どこまで具体でちゃんと言えるかで、相手への伝わり方が違う。もっと言うと、どこまで相手に関心を持っていて、どこまで相手について深く考えられているのかも相手にバレてしまうよ」
こんな内容だった。他社の自分にとってわかりにくく思い入れのない部署名でも、相手の企業の人にとっては日常使いしている部署名であり思い入れや行間がある。
このため、その部署名を固有名詞のまま使って伝えることで、抽象的な一般名詞を使って伝えるよりも相手に生々しく伝わり、相手はしっかりと考えられるようになる。
そして、そのように自分たちの会社の部署名までしっかりと理解して覚えてくれている人には、しっかりと自分たちのことを考えてくれている人という印象を相手は受けるだろう。
なので、部署名は固有名詞で覚えて、固有名詞のままで伝えた方がよい。そんな感じのフィードバックだった。
そのときは、結果として「マーケティング部」へのインタビューは他の部署へのインタビューが終わった後に回すことになった。それによって、その「マーケティング部」へのインタビューを含めて全てが上手く進んだのは言うまでもない。
「部署名」は固有名詞のままで、「小さな言葉」で呼ぼう
部署名は、人にとって名前のようなもので、固有名詞だ。
その固有名詞である「マーケティング部」のようにそれ以上に具体化できない言葉を「小さな言葉」と呼ぶ。
一方で「広告宣伝をご担当している部署」のように抽象化した言葉を「大きな言葉」と呼ぶ。
相手に生々しく伝わり、相手を動かすためには、部署名は行間まで運んでくれる「小さな言葉」の固有名詞のままで伝えよう。
それによって、相手に伝わり、相手を動かすだけではなく、相手に「自分のことを深く考えてくれている人」という印象を与えて信頼を得られることもある。
わたしもそれ以降は、戦略コンサル時代であればプロジェクト開始前に相手の企業の組織図を入手して覚え、プロジェクト開始日にはほとんどすべての部署を固有名詞のまま言えるようにしていた。もちろん、相手に伝えたときに、得られる結果、相手に与える印象、そして、相手からの信頼が変わるからだ。
たかが部署名、されど部署名。人を動かす1メッセージとは、とことん小さな言葉に拘った先に生まれるものなのだ。
(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)









