東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊される。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

北朝鮮の大規模噴火
未来の噴火で注意が必要な火山として、アジアでは白頭山があります。韓国語ではペクトゥサンと読みますが、これは中国と北朝鮮の間にある活火山です。
白頭山は946年に大噴火を起こして、その火山灰は日本列島まで飛んできていました。946年とわかったのは古文書で残っている記録からです。
また、十世紀頃の地層に火山灰があるのが日本列島周辺で見つかっています。海底をボーリングで掘りました。たかだか千年前だからまだ上のほうの地層です。
白頭山の火山灰は地層のなかでも白っぽくて比較的わかりやすい。掘っていく途中の砂泥に火山灰が入っていて、分析すると白頭山と化学組成が一緒でした。
これは中国と日本のちょうど真ん中ぐらいの海域の話ですが、白頭山から降ってきた火山灰の層の厚さは10センチメートル以上あるんですね。かなり厚い。
国際情勢に大きな影響
そして白頭山はその後、噴火していないためマグマがたまっています。こちらも噴火したら大変で、国際情勢にも影響するわけです。
まず北朝鮮がとても大きな被害に遭います。韓国も同様です。韓国の研究施設がシミュレーションしたものがメディアで取り上げられていたけれど、北朝鮮で火山灰が数メートルも積もるという見積もりでした。
白頭山が噴火すると、その火山灰がどれぐらいの時間で到達するか。24時間後、1日以内に朝鮮半島を全部覆いますよね。そして日本列島にも降ってくると。
日本の中国地方、島根とか鳥取に最初に到達するわけです。風向きによっては中国側にもいくでしょう。では住んでいる人はどこに避難したらよいか。
北朝鮮から韓国や中国には簡単に行けません。そうした意味で白頭山が大噴火すると、どのようなことが起きるかは予測がつかないんですね。国際情勢だけでなく政治経済の問題にもなります。
白頭山の噴火は最近、映画になりました。日本国内では2021年8月に公開されて日本語のパンフレットもつくられました。僕はそのなかで解説を頼まれたこともあって、その映画を公開前に観ました。みごとな映画でしたよ。
その解説文では白頭山だけじゃなくて富士山の噴火にも触れました。みなさんにとっては、そのほうが怖いかもしれません。
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。