その「余ったコメ」を海外に売っており、インドは毎年、1000万~2000万トンを輸出するとのことだ。結果、世界に流通する米の約4割をインド産が占めている。

 では、なぜインドは日本のように減反政策で価格安定化などをしないのかというと、食糧安全保障のためだ。農業というものは当然、冷害や不作もあるので、生産が落ち込むことも想定される。そうなれば急に国内が米不足になるということもある。そのときに減反などしていたら、日本のように米の価格が高騰して最悪、国民が飢えてしまう。

 そこで「余ったコメ」を海外に流していれば、米不足が起きたらこれを引き上げればいい。実際、2023年7月にはインド国内の供給確保などを優先するために米の輸出禁止を決め、世界の食料価格にも大きな影響を与えた。

 こういう形で着々と、世界中の国々が自国の食糧安全保障に力を入れている中で、食料自給率38%の日本では、「スーパーから米が消える」という恐ろしい事態が起きた。

 農水省は「米はたくさんある。新米が市場に出回ったら解決です」と盛んに触れ回った。確かに、農水省の言うとおり、新米が店頭には並んだが、価格は2倍近く高騰をした。どう考えても「減反」という異常なことを続けてきた“副作用”である。だが、農水省はかたくなに「米不足」は認めず、挙げ句の果てにこんな「説」を唱え始めた。

「お茶碗32億杯分の米を買い占めている投機筋の業者がいる」――。

 農水省がこれまでやってきたこと不条理な米政策を考えれば、国民の目を「何か」から背けるスケープゴートではないかと勘繰らざるを得ない。

 謎の投機筋を追うのも結構だが、すぐ近くに世界的にも珍しい「生産調整」とそれに伴う特殊な「利権団体」があるのに、なぜ目を瞑るのか。

 いろいろな意味で、この国の未来に希望がもてなくなってきているのは、筆者だけではないはずだ。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

農水省「コメの投機的な買い占め説」は胡散臭い…米価高騰の悲願を達成した「真犯人」の正体