「造形×テクノロジー」による小道具でテレビドラマや舞台の世界観を支える

所狭しと工具や材料が並ぶ工房から生まれるのは、時代劇で登場する精巧な武器から科学番組で使用する実験装置、はたまた誰もまだ見ぬ未来のハイテク製品のモデルなど、実に幅広い。テレビドラマや舞台、映画などで使われる小道具の製作を手がける東京・青梅市の「空間工房タシブトフクシマ」。NHKをはじめ民放でも幅広い製作実績を持ち、2022年にはTBSテレビの美術部門造形分野においてデザインセンター長賞を受賞するなど、高い評価を得ている。(取材・文/大沢玲子)

「造形×テクノロジー」による小道具でテレビドラマや舞台の世界観を支える田染友秀氏(右)と福島直美氏(左)

 同工房は1995年に誕生。田染友秀氏と公私共にパートナーである福島直美氏は大学在学中から同じ劇団で舞台装置・美術を手がけ、「独立後はそれぞれドラマセットの製作現場、店頭ディスプレーやコンサートの舞台美術などで経験を積んできました」と田染氏。

 田染氏がNHKのセット作りのアルバイトをしていた際、時代劇用の老眼鏡を製作してみないかとチャンスをもらったのを機に、丁寧な仕事ぶりが評価を受け、「大河ドラマや朝の連続テレビ小説から依頼を頂くようになり、仕事の幅も広がっていきました」(田染氏)と言う。

あらゆる素材を活用し
多様なニーズに応える

 同工房の強みは大きく三つ。一つが手間を惜しまない丁寧な仕事ぶり。特に時代小道具については、「博物館や歴史資料館などにも出向き、とことんリサーチをする姿勢を大事にしています」と福島氏。

「造形×テクノロジー」による小道具でテレビドラマや舞台の世界観を支えるテレビドラマ『坂の上の雲』で登場した臼砲

 大河ドラマに登場する武器類も多く手がけるが、大砲や銃をリアルに作動しているかのようなギミック(仕掛け)を施し再現できるのは同工房ならでは。番組が求める世界観を支えている。

 二つ目が、さまざまな素材を扱い依頼者の多彩なニーズに応えられること。田染氏が木工や鉄・アルミの造作、仕掛けもの、科学番組の実験装置の製作などを担当。

 福島氏は空間デザイン、スチロール、FRP(繊維強化プラスチック)、布での造作、彫刻、作画彩色などを担当する。さらに田染氏が得意とする「電気系統やメカの知識を組み合わせて提案できるのもポイントです」と福島氏。

「造形×テクノロジー」による小道具でテレビドラマや舞台の世界観を支える人気ドラマ『相棒22』で凶器として登場したほっぺ丸で、人間の造作とメカ技術を融合

 例えば、人気ドラマシリーズ『相棒season22』で殺人凶器として使われる毒を吐くキャラクター「ほっぺ丸」の製作は福島氏が担当。コンプレッサーを使った「毒」を吐く仕組みを田染氏が担った。

 大河ドラマ『光る君へ』の「曲水の宴」で登場した羽觴は、鳥の造形を福島氏が担当。庭園の曲水を鳥が優雅に流れるシーンを再現するため、「約1カ月間、試行錯誤の末、鳥の模型にポンプ型モーターを内蔵し、リモコンで動かす仕組みを構築しました」と田染氏。造形から技術までトータルで担い、演出を支えてくれるのは番組担当者にとって心強い存在だ。