「ノーベル賞の受賞者が講演!」→「なに言ってるか意味不明」高校生がポカーンとしたワケ『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第108回は、「いい講演の条件」を考える。

「あえて対面する」付加価値はあるか

 東大合格請負人の桜木健二は、龍山高校での講演会に矢島勇介を招く。彼は前作『ドラゴン桜』の受験生で、東大を卒業後、経産省やNGOに入っていた。

「いい講演」とはどのようなものだろうか。学年集会などでゲストの方の講演を聞くたびにそう思う。当たり前だが、有名人だからといって講演がうまいとは限らない。

 あるいは、講演がうまくても、聞き手のレベルと合ってないと面白さが伝わらない。以前高校のPTA主催でノーベル賞を受賞した科学者を招いて講演会が企画されたことがあったのだが、内容が専門的すぎて、自分を含め多くの参加者は理解できず呆然としていた。

 何より重要なのは、「それが講演でなくてはならない理由」があるかどうかだと思う。

 ただ自分の意見を伝えたいだけだったら、YouTubeの配信をしたり、原稿や資料を配布するだけでもできる。技術的にそのような代替が可能な中で、あえて聞き手を1カ所に集めて「その場でしゃべる」ことにどれだけ付加価値をつけられるかが重要だ。

 これはスピーチも同じだと思う。原稿を読み上げるだけならば、紙で原稿を配った方が早い。そうではなく、声の抑揚やスピード、聞き手の反応を見てのアドリブなど、「聞き手がその空間に参加している感覚」をいかに演出できるかが鍵(かぎ)となる。

ただ情報を伝えるだけじゃ、もったいない

漫画ドラゴン桜2 14巻P91『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 書いてみるのは簡単だが、いざやってみるとなると難しい。私は母校の学校説明会などに登壇することがしばしばあるのだが、用意するのは基本的にメモのみで原稿は作らないことにしている。代わりに、「授業」「行事」「進路」などいくつかのトピックを書いたリストを前のスライドに表示しておく。

 聞き手である小学生に、その場で話してほしいトピックを選んでもらい、そのトピックについて話す。意識しているのは「必ず初出しの情報、どこにも載っていない情報を含めること」だ。学校説明会にわざわざ足を運んできてくれているのは、公式サイトや受験雑誌には掲載されていない情報や空気感を感じるために他ならない。

「世間に公開するのはためらうが、クローズドな空間であればぶっちゃけて言える本音」が言えることも、リアルで話すことのよさだ。あまりにも個人的すぎる意見や、裏付けが取れていない体感の情報、やや個人情報が含まれるエピソードなどは、限られた聞き手の笑い話にする方がちょうどいい。

 聞き手を1カ所に集めてしゃべる価値の1つに、情熱の伝達ができることがある。同じ内容でも、その人が最も訴えたい強い思いや信念は、文字よりも声で、声よりも対面で受け取った方がインパクトがあるし、記憶に残りやすい。

 だから学校説明会の最後では必ず、単なる情報提供に終わらない情熱を語るようにしている。内容は覚えてもらえなくても「何かあの学校の生徒は熱く語っていたな」という印象を与えることができる。原稿を配布するだけだとそうはいかない。

 学校説明会と講演会を同列に語るのはおこがましいかもしれないが、どちらも聞き手がわざわざ時間を割いて参加してくれる類のものだ。その時間に見合ったものを提供できるかが、話し手としては問われているし、聞き手もそのように評価しているのだと思う。

漫画ドラゴン桜2 14巻P92『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 14巻P93『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク