でも、どうしても慣れることのできない職場でずっと働き続ける意味はあるのでしょうか。健康を害してまでそこで働く意味は、そんなにもあるのでしょうか。
ここで大事になるのが、振り返りです。
ある方は、最初は「絶対にこの会社がいいです」とおっしゃっていましたが、休職期間中に体調を崩した原因や自分自身のことを振り返るなかで、少しずつ気持ちが変わっていったようです。もっと自分に合った職場を探そうと思うようになり、転職活動を始め、最終的に、今の会社を退職すると決めたときにはとても清々しい表情をされていました。
適応障害など、一度、心のバランスを崩したからといって、必ずしも転職が必要とは限りません。でも、どうしても慣れることのできない職場なら、もっと自分に適した場所があるのではないか、と考える視点も必要です。
メンタル不調の再発は
休み方の質が悪いから
先日、ある企業で1年間の産業医業務のまとめを、人事の皆さんに報告しました。
メンタル不調の方の相談や休職面談についての統計を出し、既往歴の有無で分けてみたところ、圧倒的に既往歴のない人のほうが多数でした。つまり、メンタル不調に陥ったのは初めてという人がほとんどだったのです。
また、ストレスを抱えた理由もさまざまでした。過重労働や職場の人間関係、目標達成のプレッシャーといった仕事にまつわることだけではなく、家族の介護や病気など家庭の問題が関わっていることもありました。
こうしたことから思うのは、1つは、メンタル不調は誰にでも起こるということ。私自身も、クリニックの開業当初、あまりの忙しさに眠れなくなり、食欲も落ち、体重も10キロ減って、適応障害になりました。心が弱いからなるわけではなく、さまざまなきっかけで誰しも心のバランスを崩すことはあります。
でも、メンタル不調で相談にきた方のほとんどが既往歴なしということは、正しく休めば、ずるずると引きずるわけではないということです。
メンタル不調による休職は復職後の再発が多いと紹介しましたが、それは、休み方の質が悪かったのです。ただ仕事を休むだけではなく、きちんと自分を整え、不調に至った原因をしっかり振り返り、そして職場にも働きかけて環境も整えれば、「また再発するかも」とビクビク過ごす必要はありません。