
仕事に集中できず、眠る時までそのことを考えて浅い睡眠しか取れない。やっと訪れた休日も“寝だめ”をしただけで終わってしまう……。そんな毎日を送っていると、いずれメンタルに不調をきたすリスクがあるという。産業医として多くのビジネスパーソンの悩みに耳を傾けてきた薮野淳也氏が「睡眠」と「休養」の重要性を説く。※本稿は、薮野淳也(著)、橋口佐紀子(構成)『産業医が教える 会社の休み方』(中央公論新社)より一部を抜粋・編集したものです。
3カ月休みがなかった
過酷な研修医時代
今まで日本社会ではソルジャーのような献身的な働き方が良しとされてきましたが、ここ数年で働き方改革が浸透してきたように感じます。私たち医者の世界にも、2024年になってようやく時間外労働の上限、勤務間のインターバルの確保といった考え方が入ってきました。
少し前の話ですが、私の研修医時代には90連勤なんてこともありました。外科の研修では、「3カ月、休みナシ!」という日々。3カ月という区切りがあり、終わりが見えていたので、学ぶことも多く楽しかったのですが、そうは言っても、あんな働き方は二度とやりたくはありません。
国を挙げて働き方改革が進められている背景には、過重労働は心身の健康を害するというデータが積み重なってきたことがあります。
・1カ月の時間外労働が45時間を超えて長くなるほど、脳血管疾患や心臓疾患が増える。
・1カ月の時間外労働が100時間を超える、または6カ月の平均で月時間を超えると、健康を害するリスクがさらに高くなる。
国内外のさまざまな研究で、こうしたエビデンス(科学的根拠)が積み重なってきたので、1カ月の残業時間は45時間以内が原則とされたのです。月45時間という残業時間を1日あたりに換算すると、2時間ほど。1日3~5時間の残業は、残業ナシに比べて、心疾患のリスクを1.5倍以上高めるという研究結果もあります。
月80時間の時間外労働を「過労死ライン」と呼ぶのも、80時間を超えると健康被害が増えますよ、危ないですよというエビデンスがあるからです。ちなみに、「過労死」とは、仕事上の過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡と、仕事上の強い心理的負荷による精神疾患を原因とする自殺のこと。さらに、死亡には至らない脳血管疾患・心臓疾患、精神障害の発症も含めて「過労死等」と法律上で定義されています。
過重労働とメンタルヘルスの関係については、まだはっきりとした結果は出ていませんが、気分の落ち込みやうつ病などにつながることは間違いないでしょう。働きすぎが良くないことは、疑う余地はありません。そして、働きすぎの対になるのが、「休むこと」なのです。