といっても、それは「女性」がどうこうという話ではない。お笑いのネタ番組でこういうコントが流れても視聴者は特に何も感じないだろう。問題は郵便局の配達員側を「良識的で真面目な人」と描いておいて、客側を「おかしな行動をする人」と下げ、物笑いのネタにしていることだ。

 自社やその従業員をピエロ的に描いたり、自虐的な笑いを取ったりするならば誰も文句は言わない。むしろ、「そこまで開き直ると気持ちいい」と評価される場合もある。

 しかし、今回の動画で「ピエロ」として描かれるのは、すっぴんを見られることを極度に恐れてロボットアームまで持ち出す「客」だ。その奇行に振り回される配達員は「真面目に仕事に取り組む常識人」である。まともな企業は基本的にこういう「客下げ」はしない。

 ファストフードや回転寿司のCMで、「カウンターでカスハラする客をギャフンと言わせる」とか「潔癖症で寿司の皿がなかなか取れない客を茶化す」なんてストーリーのものは制作されないことは容易に想像できる。

 つまり今回、日本郵政はお笑いの世界で言うところの「客イジリ」によって、「郵便局ネットワークのイメージアップ」を図ろうとした。これは多くの人が不快に感じるはずだ。

 しかも、筆者がこの企画を全力で考え直させようとするのは、郵便事業を担う企業が、このシチュエーションでコメディをする発想自体が、クスリとも笑えないからだ。

「郵便です」「ハンコをください」と言って、女性や高齢者にドアを開けさせて家に押し入るというのは、日本の犯罪現場では非常に頻繁に行われている定番の手口だからだ。

 例えば、2024年1月、徳島県で住所不定の無職の男(48)が郵便局員による宅配を装い、30代の女性の家に押し入って、コンビニエンスストアで現金2万円を引き出させて奪ったうえ、「共犯者がいる」などと脅してホテルで性的暴行をした。(NHK 24年9月27日)