【マンガ】みんな、バカじゃないの?頭のいい人が「幽体離脱」で見るまさかの光景『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第172回は、ピンチの時に役立つ2つの「ひみつ道具」の活用法を伝授する。

ピンチで役立つ2つの「ひみつ道具」

 時価総額争奪ゲームの最中、劣勢に立つ主人公・財前孝史は、意識が肉体から抜け出す不思議な体験をする。自身と周囲を客観視した財前は「べつにどうってことないこと」と冷静さを取り戻し、好機が来るまで我慢する腹を固める。

 精神的に追い込まれた時、私は子どもの頃からドラえもんの2つの「ひみつ道具」、タケコプターとタイムマシンでプレッシャーをやわらげてきた。

 タケコプターは自分自身と周囲を上空から俯瞰する視点を持つことで、作中の財前の幽体離脱体験に近い発想だ。できるだけ具体的に、上空から自分を見下ろすイメージを描けると効果が高い。

 財前が気づいたように、ピンチだと思い込んでいる状況はどこか喜劇的で大局観では大したことではないケースが少なくない。タケコプターをつけて少しだけ高度を上げれば、近視眼的窒息状態を抜け出せる。

 タイムマシンは「この苦境を通過した後」をイメージすること。人間には「今」を必要以上に重要と感じる認知の歪みがある。

 しかし、その時は必死だったけど、振り返ってみれば大したことじゃなかった、という経験は誰にでもたくさんあるだろう。「今は大変でも、『終われば終わる』だけだ」と現在に過度にフォーカスした意識を修正できれば、冷静さを取り戻せる。

 今風の言葉をあてがえば、タケコプターはメタ認知、タイムマシンは未来志向とでもなるのだろう。セルフ・ディスタンシング(自己距離化)という用語もあるようだ。

小学生で身につけた「タケコプター」

 私はタケコプターを小学生の時、タイムマシンを中高生の頃に身につけた。

 本で読んだり誰かに伝授してもらったりしたわけではなく、プレッシャーがかかった時に「自分らしくない自分」になってしまうのが嫌で、対処を探るうちにこの手法に行き着いた。冷静でパニックになりにくい性格なのはこのふたつを身につけているからかもしれない。

 空間と時間をリセットする2つの手法になぜ効き目があるのか。突き詰めると、そこにあるのは「どうせ人間、いつかは死ぬ」という当たり前の事実だ。

 タイムマシンを「自分の死」まで進めてしまえば、今現在向き合っているトラブルを「死ぬ直前の自分」はどう思うだろうか、という発想に行きつく。

 あるいは自分の死後、目の前の出来事は世界に何か影響を及ぼすだろうか、と考えてもいい。「どうせいつか死ぬ」の諦念に、タケコプターで俯瞰する冷静さが加われば、ほとんどのことは些事にすぎないと思い切れる。

 無論、ふたつのツールを使って客観視できたとしても、厳しい状況が続いてしまうことはある。それが自分ではコントロールできない事態なら、耐えるしかない。

 大事なのは、そこで萎縮したり腐ったりせず、出口が見えた時に好機をつかむことだ。そのためにこそ、ピンチの中でも平常心を保つのが大切なのだ。

 タケコプターとタイムマシンの成功体験を重ねると、プレッシャーがかかった時に「アレの出番だな」とツールを発動する心の余裕が持てるようになる。「心のポケット」に常備してみてはどうだろうか。

漫画インベスターZ 20巻P51『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 20巻P52『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 20巻P53『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク