
三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第170回は「占い」と「誕生日」を考える。
占いにハマった金融マンの「その後」
序盤で躓く主人公・財前孝史をみて、観戦中の投資部OBの鏡が「運気はどん底なのよ」と断じる。鏡は政治家や経営者、芸能人などを顧客とする有名な占い師。誕生日を聞くだけでの運をピタリと当てる鏡の力量を知る投資部メンバーは意気消沈する。
私は占いの類いを信じないつまらない人間なのだが、占いが役に立つのは知っている。セラピーやコーチングのような効用が占いにはある。
リーマンショックの真っただ中だった2008年の年末。第一線バリバリの金融マンA氏とお茶をしていたら、「良い占い師を知っていたら紹介してほしい」と相談された。その人は超が付く合理主義者で、普段なら私同様、占いには全く関心がないタイプだ。
冗談かと思ったが、A氏の目は真剣そのもの。実はすでに2人ほど占い師に会っているという。改めて目をみつめると、真剣というより、やや常軌を逸している感じがした。
金融危機のど真ん中、自身のビジネスは破綻の瀬戸際に追い込まれ、ストレスで心身のバランスが崩れていたのだろう。残念だがお役に立てそうもないと伝えると、知人にもあたってみてくれないか、ともう一押しされた。その後しばらくして、A氏は同僚の強い勧告で半ば強制的に長期休暇をとった。
今でもA氏と会うと「あの時、占い師、探してましたよね」と昔話で盛り上がる。「あの時の自分はヤバかった」と笑いながら、A氏は「でも、占いで『大丈夫』と言ってもらって、精神的にすごく助かった」と振り返る。
「4月2日生まれ」はなぜ多い?

昔から政治家や軍人、経営者には占い好きが一定数いて、神秘主義に基づく判断が政策や経営に影響を与えたという逸話は少なくない。たとえばロナルド・レーガン米大統領。ファーストレディーのナンシー・レーガンが占星術の信奉者で、専属の占星術師が大統領のスケジュール管理に関与していた。
外交日程や演説などで占星術的に「良い日」が選ばれていたと側近が暴露している。もっと時代を遡れば、軍事で占いが使われた例はいくらでもある。常に確信が持てないまま決断を迫られる立場にあれば、すがるものが欲しくなるのかもしれない。
最後に私自身の占いとの相性の悪さを少々。
まず名前。普段は常用漢字の「高」を使っているが、戸籍は旧字の「髙」となっている。高と髙では画数がひとつ違う。姓名判断はどっちで占えばいいのか、調べるのも、考えるのも、面倒くさい。三姉妹を命名するときも画数はまったく考慮しなかった。
次に誕生日。私の誕生日は4月2日で、免許やパスポートにもそう明記してある。だが、実際に生まれたのは3月27日なのだ。私の世代では珍しいかもしれないが、昔は3月生まれの子どもを4月2日生まれと届けてしまうことはよくある話だった。
4月1日生まれまでは「早生まれ」扱いで1つ上の学年になるためだ。だから4月2日生まれは統計的にあり得ないほど多い。私の場合も助産師のすすめで出生届を誤魔化したらしい。
この事実を私は50歳近くになって知った。母の捏造と隠ぺい工作、真相が発覚した愉快な経緯は「ふたつの誕生日と、もうひとつの人生」というnoteに記した。
占いを信じる人間だったら、「実は誕生日が違ってました」と知ったらショックだっただろうな、と想像すると、それはそれで愉快ではある。

