これまでのシャープにおさらばしたい──。経営危機に揺れる名門家電メーカーが14日、1年余りで経営陣刷新という異例の発表をした。何が起きたのか。経営中枢に迫った。(本文敬称略)

奥田社長は就任前に“普段着の役員”として、気取らない人柄で知られていたが、経営危機を前に求心力を保てなかった
Photo by Naoyoshi Goto

 4月27日夜、大型連休を迎えた大阪市中心部──。夏のような暑さや、浮足立つ街の喧噪と打って変わり、ある料亭の一室では張り詰めた空気が漂っていた。

「私は会長職を辞める。あなたも決断をするべきだ」

 この日、海外出張から帰国したシャープ会長の片山幹雄が、テーブルを挟んで向かい合っていた社長の奥田隆司にそう詰め寄ると、同席していた経営幹部らは思わず息をのんだ。

 昨年4月に社長に就任した奥田に対して、経営幹部の不満はもはやピークに達していた。

 経営危機の真っただ中にあって、事業計画策定では「経営コンサルタントの意見を取り入れて」と消極的な姿勢を取ることが多く、プレゼンテーションの訓練を受けても、会見では原稿の棒読みを繰り返す姿は受け入れ難いものだった。

 一方で、主力の液晶事業を委任された片山は、独自の人脈を使って海外の大手メーカー首脳との提携交渉に奔走。すでに代表権も返上していたが、依然として社内に影響力を残していた。

 さらに、である。すでに一線から身を引いていた相談役の町田勝彦も「奥田は自分が(社長に)指名した」と周囲に漏らし、「昨年末に下期の営業黒字化が見えると、経営復帰をほのめかし始めた」(同社幹部)。

 誰がトップかわからない。まさに“多頭経営”ここに極まれり、といった状況だった。

 そんなシャープの混乱は、社内外からも不安視されるようになっていた。

「赤字の経営責任の所在が不明確なまま」(証券アナリスト)、「誰に経営計画を相談していいのかわからない」(同社社員)。そんなゆがんだ内情は、主力銀行や経済産業省にも届いていた。