毎年、多くの会社が設立されるが、東証一部(現在のプライム市場)に上場できるまで成長する企業はほんの一部だ。そんななか、マネジメントソリューションズ(以下、「MSOL」)は過酷な環境を生き抜いて20年以上も成長し続け、東証一部に上場した。
MSOLは2005年に現会長である高橋信也氏によって創業された、プロジェクトマネジメントの実行支援を行うPMOを専業とする会社である。2025年現在、売上高200億円、1400名の社員を抱える。2018年にマザーズ市場に上場し、翌年には東証一部に市場変更した同社の、この成長の原動力となったのは何か。それは、戦略、プロセス、組織、ITの4つが密接に連動する、きわめてシステマチックな経営システム(以下、「MSOL経営システム」)にある。
MSOLの経営システムとは、創業者の高橋氏が1000冊以上の経営書を通じて得た理論と、コンサルタントとしての経験から得た実践の両方から、時間をかけて構築されたきわめて高度な経営理論だ。これまで実践してきた経営理論について『MSOL経営システム――理論と実践』として1冊にまとめた。高橋氏は「どんな組織も成長できる」経営システムだという。そこで、本書について2回にわたり紹介する。前編は、MSOL経営システムを構成する「戦略」「プロセス」「組織」「IT」の各要素について説明する。

理論と実践で裏付けられた、どんな組織も急成長できる経営システムとは①〈PR〉
MSOL経営システムを構成する4つの要素 :  上に示すように、MSOL経営システムはバランス・スコアカードを用いて、「戦略」「プロセス」「組織」「IT」の各要素を連動させたものである。バランス・スコアカードについて、高橋氏は「戦略にもとづいてプロセスや組織をKPIを用いて可視化し、ITを活用して効率的にモニタリングするためのフレームワーク」とし、「財務」「顧客」「組織カルチャー」「マネジメント基盤」の4つの視点を定義した。 では、MSOL経営システムを構成する「戦略」「プロセス」「組織」「IT」をそれぞれ紹介しよう。

MSOLの「戦略」

 まずは戦略だ。高橋氏は、戦略を「ミッションとビジョンをベースに潜在的なマーケットに対してどのように事業を拡大していくかという戦い方のこと」と定義。自社の戦略を「市場価値は高いものの、他社が手がけていなかったPMOというユニークなソリューションに特化する」とした。この戦略の方向性を固めるのに、高橋氏は3年の時間をかけた。

 MSOLのこの戦略は、ポーターの競争の戦略、ブルー・オーシャン戦略、ランチェスター戦略、見えない大陸(Invisible Continent)を参考にして立てられた。ポーターの競争の戦略でPMOビジネスのポジショニングを確立し、ブルー・オーシャン戦略で競争優位性を獲得。ランチェスター戦略で戦い方を、見えない大陸で考え方を整理した。こうした「やること」を定めていく一方で、「やらないこと」も決めていった。それは、高橋氏の「やらないことを決めることも戦略として考えるべきだ」という信念からだ。

MSOLの「プロセス」

 高橋氏は、プロセスを「経営・組織という観点で見た時に、日々の仕事にどういうつながりがあり、どういう効果をもたらしているかを示す仕組みのこと」と定義している。プロセスを正しく機能させるには、モニタリング・検証・評価が必要となる。そこでMSOLでは、ITによってプロセスの効率化と省力化を実現させた。

 この考え方の根底にあるのは、高橋氏の「無駄嫌い」だ。学生時代もどれだけ効率的に学習できるのかを念頭に置いて勉強していたという。当然ながら、仕事でも効率的であることを追求し、MSOLは高い生産性を実現している。

 無駄を徹底的に省く一方で、戦略的に重要なことはしっかりと時間をかけている。たとえば、評価は丁寧に時間をかけて行う。なぜなら、評価のプロセスを疎かにすると、全体の士気に関わるからだ。

MSOLの「組織」

 組織に関して、本書ではまったく逆の2つの経営理論を紹介している。それは「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」である。これはどちらも正しい。高橋氏は「組織の状況に応じて選択すればいい」と述べ、組織が大きくなれば戦略も変わることから、「組織と戦略は相互に関わり合いながら拡大していく」と注釈を入れている。

 組織をつくるうえで最も重要なことは「意識的に組織のカルチャーを醸成すること」だと高橋氏は述べている。では、MSOLの組織はどう成り立っているのか。高橋氏は、チェスター.I.バーナードの「組織の3要素(共通目的、協働意欲、コミュニケーション)」をベースに、P.F.ドラッカー、バーナード・サイモン、沼上幹の理論を参考として、MSOLを「意思決定する組織」「現場でプロジェクトのデリバリーをする組織」「意図的にカルチャーをつくる組織」の3つで構成した。

MSOLの「IT」

 最後はITだ。ITと言われて思い浮かべるのは、現場の効率を向上させるためのツールだろう。だが、MSOL経営システムにおけるITは、「経営の意思決定を効果的、効率的に行うための手段」であり、バーナードの「組織の3要素」を実現するものだ。組織の規模によらず確実にプロセスを実行できるよう、ITで必要な機能を備えるのである。ITはビジネスと組織を構築し、円滑なコミュニケーションを築き、ミッション・バリューの浸透に重要な役割を持つ。だからこそ、高橋氏は創業時からITを重視し、先を見据えてシステムを整備してきた。