<日本企業の組織変革が阻害されている理由>
「日本企業の経営は昭和初期から変わっていない」

 高橋氏は組織論に強い思い入れがある。彼は大学で組織論のゼミを選択しており、「日本的経営の源泉:家の論理」というゼミ論文をまとめている。本書の付章にサマリーを掲載しているが、とても30年前に書かれた論文とは思えないほどだ。

 付章を掲載した理由について、「日本企業の変革が遅々として進んでこなかった歴史的な背景、およびその源泉を読者の皆さんに考えていただきたいと思った」と述べている。そこには、MSOLの組織と文化を長い時間をかけて試行錯誤しながらつくり上げてきた彼の信念と情熱を感じさせる。

 だが、最も衝撃を受けたのは「私は当時から、世代交代が進まないと根本的には変わらないのではないか、と感じていた」という一文だ。その理由として、三戸公著『家の論理』で論じられた「日本的組織の源流は、家的な組織構造にあり、それを江戸時代から脈々と続けてきたがために、組織の根本ができ上がってしまった」の部分が挙げられている。無意識の部分で家の論理を重視しているがゆえに、企業の組織変革が阻害されているというのだ。続けて、高橋氏は「読者の皆さんの置かれている環境の中で、変革が必要な企業組織内における『家の論理』が見えない壁になっているかもしれません」と述べている。この説明を受けて、日本企業のDXが失敗する、あるいは日本企業のDXが進まないことに納得する人は多いのではないだろうか。

 もう一つ、面白いエピソードが披露されている。ゼミ論文には1994~95年における日本型雇用に関する情報が用いられているが、ある講演会で参加者に「これらの情報がいつのものだと思うか」と質問したところ、3割が2010年代、7割が2000年代と答えたという。つまり、それほど日本企業の経営は変わっていないということだ。

 付章の最後を、高橋氏は「『家の論理』には良い面もたくさんあります。新卒を育てる文化はそのひとつであると考えています。(中略)『家の論理』によりつくられた無形の組織文化を客観視し、取捨選択を行う必要があると考えます」と締めくくっている。MSOL経営システムを構築した高橋氏が望むこと。それは、このMSOL経営システムを活用することによって、企業を成長させることである。

本書の著者 高橋信也(たかはし・しんや)
1972年生まれ。上智大学経営学部卒。ゼミは組織論、日本的経営の研究。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、キャプジェミニにおいてシステム開発から経営コンサルティングまで幅広いプロジェクトに携わる。その後ソニーグローバルソリューションズへ入社し、グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。2005年マネジメントソリューションズ(MSOL)を設立。2024年1月より取締役会長に就任する。また、一般社団法人アジア経営研究機構(AMRI)代表理事、株式会社GT MUSIC取締役を務める。著書には『PMO導入フレームワーク』(生産性出版)、『コンサルタントになれる人、なれない人』(プレジデント社)がある。