2012年にヤフー(現・LINEヤフー)が取り入れたことで一躍有名となった「1on1」。これは、上司と部下が1対1で定期的に面談をするマネジメント手法だ。ヤフーに倣って1on1を取り入れた会社も少なくないはずだ。しかし、なかなか定着しない会社も多いのではないだろうか。当時、ヤフーで上級執行役員を務めており、1on1の仕掛け人でもあった本間浩輔氏(現在はパーソル総合研究所取締役会長や朝日新聞社の社外取締役などを務める)は、ヤフーで1on1が浸透した理由の一つに「上司と部下とのコミュニケーションを、(業務として)会社が指示したことにある」と語る。このことが一体どのような影響を及ぼしているのだろうか。本記事では、本間氏の著書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

ヤフーの1on1Photo: Adobe Stock

ヤフーが1on1を始めた理由とは

「週に1回程度、30分上長と部下で話す時間をつくってください」

 そのように、会社から指示が出たとしたら、あなたはどう思うだろうか。

「忙しいのに!」「悩みなんて聞き出せない」「キャリア相談ってどう答えるの?」――そんな戸惑いがよぎる人も多いだろう。

 しかし、1on1を世に広めたヤフーが1on1を導入した最初の目的は「対話の機会をつくること」だったという。

上長は部下ともっと話をしたかった。しかし、忙しい部下の時間をとることをためらう上長がたくさんいた。
一方で、部下も上長ともっと話をしたかった。しかし、忙しい上長をつかまえて、自分一人のために時間をとってもらうような依頼はできなかった。
要するに、上長も部下もコミュニケーションの時間が欲しいと思っていたけれど、その機会がなかったのです。(P.74)

 さらに、昨今はリモートワークが浸透した結果、ますます上長と部下が話す機会が減っている。

 本間氏は「コミュニケーションは、頻度が低くなればなるほど億劫になる」と指摘する。

「だからこそ、時間や頻度を決めて定期的に行う1on1は、貴重なコミュニケーションの機会になる」というのが本間氏の考えだ。

鍵は高頻度なコミュニケーション

 1on1を始めるにあたって重要なのは、「忙しくないときに」「月に1回」など、あいまいな頻度ではなく、「毎週水曜日の13時から30分間」など、できれば週1回30分ほどの決められた時間を確保することなのだそうだ。

毎週必ず決められた時間に1on1を行うことで、対話が「習慣化」します。
上長も部下も、対話に慣れていくことが1on1を成功させる「はじめの一歩」なのです。(P.75)

 こうして、高い頻度でコミュニケーションをとることによって信頼関係が構築でき、伝えるべきことを伝えられるようになる。

 これは、仕事をしていくうえで非常に大切なことだ。

 なぜなら仕事は人と人との間で始まって、進行し、成果を生み出していくものだからだ。

 そうである以上、コミュニケーションを避けて通ることはできない。実際、コミュニケーションが仕事に及ぼす影響は大きい。

仕事における失敗事例では、「コミュニケーションがよくなかった」という要因が語られがちですし、成功事例では「コミュニケーションがとれていたから」ということが多いはず。
さらに、上長と部下との1on1によって、聞くこと、話すことに習熟していけば、それは対顧客、対取引先についても使えるコミュニケーション・スキルになっていきます。(P.121-122)

「信頼関係を築くことを主眼とするなら、話す内容は雑談でもいいかもしれない」と本間氏。

 難しく考えず、何か話題を見つけて話をすることだけでも、ファースト・ステップとしては意味があるのだ。

1on1は苦手な部下との関係性構築にも役立つ

 高頻度の1on1は、「苦手な部下」がいる場合にも非常に有効なのだそうだ。

 本間氏にも、以前苦手な部下がいたという。仮にその部下をAさんとする。

 当時、ヤフーには1on1の制度はなかったが、本間氏は自分のチームだけは1on1を行っていた。

 特に、Aさんとは、「コミュニケーションの頻度を保つために、週1回のペースを守っていた」と語る。

最初の数ヶ月は、話す内容にも苦労しましたが、事前に話題を用意し、普段からAさんを観察するなどの準備を怠りませんでした。
Aさんはぶっきらぼうな態度を見せることもありましたが、1on1を通じて価値観を知ることができたので、だんだんと受け入れることができるようになっていきました。その後、私が仕事で困難な状況に直面したとき、助けてくれたのはAさんでした。(P.78)

 苦手な部下と高頻度で1on1を行うのは大変なことだが、話せば話すほど、その人の意外な一面を発見できるチャンスは増える。

 その結果、1on1の場以外での会話が増えてトータルのコミュニケーション回数が増えることも十分に起こり得ることである。

 この場合、重要なのは、あくまでも「頻度」である。話す機会を数多く持つことを意識したい。

高頻度なコミュニケーションの先にある信頼構築

 本間氏は「組織が共通の目的に向かっていくとき、上長と部下の間に信頼関係があるかどうかはパフォーマンスに大きな影響を及ぼす」と語る。

 信頼関係が構築されていれば忌憚のない話もできるが、人間関係が希薄なうちは難しいものだ。

 一歩踏み込んだ対話や意見交換ができるようになるためには、「高頻度でコミュニケーションを重ねることなしには実現しない」と本間氏は提言する。

 つまり、1on1の価値を最大化するには、「制度としての仕組み化」が欠かせないのだ。

 もし、あなたが1on1で何をしたらいいか戸惑っているならば、ひとまず高頻度でコミュニケーションをとることを意識することから始めてみてほしい。

 きっと、部下との距離感が縮まるのを実感できるに違いない。