バイオ燃料: 新興・途上国の現状に合ったエネルギー

 2023年9月にインドで開催されたG20の場で、主催国のインドに加え、米国とブラジルが主導する形で「世界バイオ燃料同盟(GBA)」が発足した。旗振り役の3カ国のほかに、シンガポール、UAE、バングラデシュ、アルゼンチンなど新興・途上国を中心に16カ国と12の国際機関が参加している。なお日本は、オブザーバー国として参加するにとどまっている。

 バイオ燃料とは、バイオマスを原材料とした燃料を指す。例えば、サトウキビやトウモロコシなどの農作物、建物を建てる際に出た廃材や、家畜の糞尿、食品工場の廃食油などが原材料となる。いずれの原材料も、生成されるまでに光合成等によって大気中のCO2を吸収している。そのため、エネルギーとして燃焼する際にCO2が排出されても、大気にあったものを元に戻すだけという考えのもと、バイオ燃料は再生可能エネルギーのひとつとされている。

 バイオ燃料は、社会の電化にハードルを抱える新興・途上国の現状に合ったエネルギーであると言える。また、バイオ燃料の原材料は多様であり、新興・途上国においてもアクセスしやすいものが多い。さらに、農林業や食品産業における廃棄物を、コストをかけて処分する代わりにエネルギーとして利用できるので、化石燃料を削減できる方法にもなりうる。

 こういった観点から、将来的な電化を見据えつつも、まずは自分たちの現状に合った方法で炭素排出量を削減していく方法として、バイオ燃料の生産・活用を促進する動きが新興・途上国の間で広まってきたと言える。

ガソリン代替としてのバイオエタノール利用の発展

 バイオ燃料の最もオーソドックスな利用方法は、陸上交通へのエタノール導入だ。ブラジルではガソリンスタンドで、レギュラー、ハイオク、ディーゼル等に加えて、バイオ燃料であるエタノールを選択できる。ガソリンと比べると燃費は悪いものの、再エネで環境に優しいほか、ガソリンと比べて価格も2~3割抑えられる。

 1973年に起こったオイルショックは、当時消費エネルギーの8割を輸入の石油に頼っていたブラジルにとって、エネルギーの多角化と国産化の重要性を認識する機会となった。さらにブラジル政府は、1975年に石油の輸入を制限し、その代わりに国産バイオエタノールの生産を拡大するよう規定した国家アルコール計画を策定している。

 さらに、エタノールの小売価格の保証、生産工場新設への低利融資といった一連の振興策を導入することで、結果として国民が当たり前のようにバイオエタノールをガソリンに混ぜる、現在のブラジルの基礎をつくり上げたと言える。

 エタノールの利用促進に伴い、ブラジルではガソリンにエタノールを混合して走ることのできるフレックス車の開発も進み、2000年代に市場に投入された。現在は新車販売の9割がフレックス車となり、現地に拠点を置く日系メーカーを含め自動車市場自体も、エタノールの混合を前提としたものに移り変わってきた。

 様々な政策をもってバイオエタノールの普及を推進してきた結果、ブラジルのバイオエタノールの導入状況は、世界的に見ても突出している(図表3)。

日本に期待 「環境・サステナビリティ」アジアへの貢献〈PR〉

 アジアの新興国においても陸上運輸部門の脱炭素の第一歩として、ガソリンへのエタノール混合が進められている。例えば、ガソリンへのエタノール混合率についてタイは10%、インドは10%、インドネシアは10%と規定している。今後も混合率は引き上げられていく見通しだ。

日本のニーズと重ね合わせて新たな市場を形成し、世界の変革を加速する

 バイオ燃料を軸に脱炭素に取り組んでいこうとする動きは、今まさに始動したばかりである。GBA参加各国は今後、自国の資源を活用しながらバイオ燃料の生産能力を拡大していくものとみられるが、そのためには安定した需要が見込まれる必要がある。そこで日本が、バイオ燃料のオフテイカー(引き取り手)として需要創出の一端を担うこともできる。

 SAF(持続可能な航空燃料)やバイオプラスチックの市場は、新興・途上地域よりも環境対策で先行する先進国で先に立ち上がるとみられている。日本も、アジア諸国等からバイオ燃料を輸入して利用するのみならず、SAFやバイオプラスチックの製造拠点の立ち上げ、製品のサプライチェーンの構築をリードすることができるだろう。

 日本はバイオ燃料の需要創出に加え、バイオ燃料を調達する際の指標となる、国際的な基準・制度づくりにおいても牽引役を期待される。

 例えば日本企業が、アジア諸国からバイオ燃料を調達する際に、調達する燃料がどのくらいGHG(温室効果ガス)の排出削減に貢献したかを評価して購入することはひとつの方法だ。多国間での調達基準・制度を構築できれば、世界的に途上段階にあるカーボンクレジットの測定や定量化といった課題の解決にもつながる。

 日本がアジアでバイオ燃料産業の発展をリードし、その調達の際に指標となる基準・制度を構築することは、アジアでのバイオ燃料の生産のみならず、世界の脱炭素化を加速化させることにもなるだろう。