トランプ関税の影響で株価が乱高下している。新NISAを始めた人も、まだ投資を始めていない人も不安はつきない。そこで今回は、「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛され、「株の買い時を考えるチャンネル」でも「お金好きな人にマジでオススメ!」と話題となっている全米ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の著者ニック・マジューリ氏(データサイエンティスト)にインタビューした篠田尚子氏(ファンドアナリスト)が登場。篠田氏は「読むと人生が変わるお金の哲学書」と話題のベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』著者スコット・ギャロウェイ氏のPIVOTインタビューにも成功。両者を直にインタビューした日本で唯一の人物だ。そんな篠田氏は『JUST KEEP BUYING』をどう読んだのか。不安を抱える日本人への特別寄稿第5弾をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

いつも「人と比べてしまう人」へ
人は、自分の豊かさになかなか気づくことができない。
誰もが認めるような億万長者でも、自分よりさらに裕福な人が目に入ることで、自身が金持ちであることを実感できないという。
『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の著者であるニック・マジューリ氏は、「金持ち」があくまでも相対的な概念であることを指摘しつつ、自分より裕福な人が気にならなくなる秘訣として、他人ではなく、まずは自分がいかに恵まれているかを考えるべきだと述べている。
これは投資にも当てはまる。
客観的に見れば十分なリターンを積み上げていても、SNSを覗けば、自分より成功している人が気になってしまう。
こんな経験があるという人は多いのではないだろうか。
資産運用の「成功」とは?
ではそもそも、どの程度のリターンを獲得できれば、資産運用は「成功」したと言えるのか。
一般的に、長期で見たときの世界株式の期待リターンは年率7%程度といわれている。
重要なのは、この数字には一定のインフレ率も考慮されているということだ。
足元数年は、米国株を中心に年率で二桁台のリターンを獲得できていたので、例えば、「年3~4%程度」と聞くと誤差の範囲と思ってしまうかもしれない。
しかし、この「年3~4%程度」こそが、期待インフレ率に相当するリターンであり、最低限、獲得しておきたい水準となる。
言い換えると、年3~4%程度のインフレに負けない程度のリターンを確保できれば、資産運用としては十分合格点=成功であると私は考える。
NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)は長期投資が原則なので、世界株式と同じ7%程度を目標リターンとするのが理想だが、もう少しリスクを抑えて5%程度でも十分だろう。投資期間が長期になればなるほど、複利の効果も期待できるためだ。
とはいえ、現実には、投資で成功体験を積めば積むほど、リスクとリターンに対する感覚が麻痺しやすくなる。
現状よりも高いリターンを欲するというより、これまで獲得できていたリターンの水準を下回ることが受け入れられなくなる。
足元4~5年の間に米国株投資を始めた人は今まさにそうした状態にいるのではないだろうか。
繰り返しになるが、長い目で見て、年率5~7%程度のリターンを獲得できれば合格点を十分に上回ることができる。
その過程では、単年でリターンが二桁台のマイナスに沈むこともあろう。
仮に今年(2025年)がその年になったとしても、「これまでが恵まれすぎていたのだ」と考えたほうがいい。
実際に、昨年2024年末から遡ること数年は、急速な円安進行も日本の投資家にとって強力な追い風となっていた事実を見落としてはいけない。
リスクとリターンの関係
ニック氏はリスクとリターンの関係性について、
「過度に贅沢な暮らしをしようとして大きなリスクを背負うのではなく、
十分な暮らしができるお金を確実に得ることを重視しよう」
とアドバイスを送っている。
人は、豊かな生活がある程度まで実現されると、それ以降は幸福度が上がらなくなる。
これは資産を増やす場合についても同じだという。
つまり、ただ増やし続けるだけではなく、必要に応じて保有資産を売却し、使うことも考えながら資産運用に取り組むことが大切と言える。
積立投資の究極のタブー
さらにニック氏は、時間ほど重要な資産はないと断言する。
お金は人生の後半からでも稼ぐチャンスはあるが、時間は取り戻せないし、増やすこともできない。
「時間」という強力な資産を味方につける投資法が積立投資である。
そしてこの積立投資こそが、本書のタイトルにでもある『JUST KEEP BUYING』のコンセプトでもある。
積立の場合、始めてから思うように結果が出なくても焦る必要はない。
市場環境によっては、利益が積み上がっていることを実感するまでに、2~3年の年月を要することもある。
コツコツと積立を続け、最終的に上昇局面で積立を終えて売却する、というのが理想の形だ。
「トランプショック」で大損する人の特徴
また、積立投資で、「下がってもとにかく続けることが大切」と言われるのは、積立投資では、開始当初よりも終盤期の成績のほうが、資産の増え方に与えるインパクトが大きいからだ。
コツコツと積立を続けて増やした口数を、終盤期にいかに効果的に最終的なリターンにつなげられるか。
これこそが、積立成功のための秘訣である。
言い換えれば、下落局面で焦って積立をやめ、売却することは絶対に避けたい。
これでは、せっかく積み立てた口数が、終盤期の成績によって台無しになってしまう。
プロの投資家にはない、個人投資家に許された最大のアドバンテージは「時間」である。
急落時こそ焦らず、どっしり構えて、再び上昇に転じるのを待とう。
(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』に関する書き下ろし記事です。)
篠田尚子(しのだ・しょうこ)
ファンドアナリスト。CFP®、1級FP技能士
日本で数少ないファンドアナリスト兼FPとして、資産形成の初歩的な解説から具体的な商品の提案に至るまで幅広くカバー。