あの有名なアドラー心理学でも、「結果を褒めてはいけない」と主張しています。

 アドラー心理学の研究者である哲学者の岸身一郎氏は、著書『叱らない、ほめない、命じない。―あたらしいリーダー論―』の中で、次のように述べています(注2)。

 ほめることの問題点は二つあります。

 一つには、ほめられるために頑張ろうとする人が出てくることです。上司からほめられた人たちは、無意識のうちに、上司からほめられることだけをするようになります。逆にいえば、ほめられないことは、何もしません。ほめてくれる人がいないかぎり、自分の判断で動くことがなくなると、子育ての場面でも、職場でも、困ったことになります。

 1位をとれることだけをする。100点をとれる簡単な問題しかしなくなるなど、課題の継続という面で、悪影響が出てしまうのです。一方で、「努力」を褒められた人は、意欲が高まり努力し続けることがわかっています。

 小学5年生を対象とした研究では、「努力を褒められた子ども」は、「知能を褒められた子ども」よりも、最終的に学業成績が向上したことが示されています(注3)。失敗をしても、「努力」を褒められた子どもは、粘り強く、楽しみながら課題に挑戦し、最終的には成績が向上したといいます。一方で、「知性」を褒められた子どもは、成績が伸び悩む傾向がありました。

「やればできる」と思い、頑張ったのは、「努力」が評価された子だったのです。

 お子さんが今、運動や勉強などでいい成績をとれなくても、問題ありません。なぜなら、自己肯定感を高め、人の能力を伸ばすためには、その「努力」に着目することが大切だからです。「足が速いね」「頭がいいね」と、「結果」や「状態」を褒めるのではなく、「最後まで頑張ったね」「一生懸命勉強していたね」と、その「努力」を見つけて伝えていきましょう。これはもちろん、遅生まれの子にも、会社の部下にも効果がある褒め方です。

自己肯定感を高める褒め方(2)
褒めると同時に、しっかり叱る

 子どもの自己肯定感を高めるために、「努力」を褒めるのがよい、ということがわかりました。では、褒め続けるだけでいいのでしょうか。

 実は、褒められるだけでは、十分ではありません。同時にしっかりと叱ることが大切なのです。

注2 『叱らない、ほめない、命じない。-あたらしいリーダー論-』岸身一郎(著)、小野田鶴(構成・編集) 日経BP
注3 C M Mueller, et al. Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. J Pers & Soc Psychol, Jul;75(1) 1998, 33-52.