「言わなくてもわかるでしょ」はNG

安斎 「そういう組織を抜け出すには?」と聞かれれば、それはさきほどお伝えした「非対称な自己紹介」とか「暗黙のルールだらけの情報」を変えていくことだと思います。ちゃんとお互いのことを知るための時間を設けるとか、チーム内で暗黙の前提になっていることをちゃんと明文化するとか。

「空気読めよ」「仕事しながらなんとなくわかればよし」ではなく、ハイコンテクストにやり取りされていることをどんどんローコンテクスト化していく。そういうマネジメントに切り替えていけると、新しく入った人が居心地の悪さを感じず、うまく馴染んで活躍できるチームになってくると思います。

「居心地のよさ」ではなく、
「活躍のしやすさ」を

安斎 ただ、「とにかくチームの居心地さえよければ、それでいいのか?」ということも考えておく必要があります。

 自分だけが自己紹介をさせられて、どんな規範があるのかよくわからなくて、とにかくみんなの顔色をうかがわなければいけない――そういう組織では、「村の空気を読むこと」に自分の努力のリソースが奪われてしまって、健全な努力ができません。これはいわば「不健全な居心地の悪さ」です。

 かといって、逆にめちゃくちゃ温かく受け入れられて、何をやっても全部「いいね、いいね!」としか言われない環境というのも考えものです。

 たしかに居心地はすごくいいかもしれませんが、まったくストレッチがかからない「ぬるい」環境では、個々人が成長する余地もない。こちらは「不健全な居心地のよさ」とも言えると思います。

 大切なのは、「ぬるさ」によって居心地のよさを演出するのではなく、お互いの個性やチームのポリシーとかをしっかり言語化・共有し、自分が何に向かってがんばればいいのかを明確にしていくことだと思います。

 そうすれば、新参者であってもすぐに適切な努力をして、パフォーマンスを上げられるようになる。

 そういう「健全な居心地のよさ」をつくっていくことが必要だと思いますね。

安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI(ミミグリ)」を創業。資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、ANYCOLORなどのベンチャー企業に至るまで、計350社以上の組織づくりを支援してきた。また、文部科学省認定の研究機関として、学術的知見と現場の実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高める「知の開発」にも力を入れている。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。主な著書に『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(テオリア)、『問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著に『問いのデザイン』(学芸出版社)、『リサーチ・ドリブン・イノベーション』(翔泳社)、『パラドックス思考』(ダイヤモンド社)、『チームレジリエンス』(JMAM)などがある。