ビジネス環境や働き方が大きく変化する中、働く現場では「人と組織」をめぐる課題が複雑化している。近年では、個人の学習・変化を促す「人材開発」とともに、「組織開発」というアプローチが話題になっており、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(中村和彦監修・解説、早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫著)のような入門書も刊行された。今回は、こうした「人と組織のあいだに渦巻くモヤモヤ」に正面から切り込んだ話題作『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』の著者であり、気鋭の組織づくりコンサルファームMIMIGURI代表でもある安斎勇樹さんに、「異動先で“なぜか居心地が悪い”と感じてしまう職場の空気とその正体」について話を伺った。(企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

自分だけが「自己紹介」を求められる
――「異動した先の部署だけ、なぜかやたらと居心地が悪い……」、そんな経験を持つ人は少なくないはずです。何がそう感じさせるのでしょうか? また、どうすればそれを改善していけるのでしょうか?
安斎勇樹(以下、安斎) よくあるのが“村社会”型の組織ですね。「村長」のようなリーダーが中心にいて、その人の目がすべてに行き届いている。そして、その周囲に副リーダーのような人たちがいて、すべての人間関係や権力関係、行動の規範が、暗黙のうちに構築されているんです。
だから、新しく入ってきた“新参者”は、その村に承認されるための「努力」を求められる。努力の結果、受け入れられなければ、「排除」されてしまうといった構造があります。
そういう組織で典型的なのが「自己紹介の非対称性」です。つまり、新参者だけが自己紹介を求められて、既存のメンバーは誰が誰なのか説明すらされない。
誰が偉くて、誰が実権を握っていて、誰にどう接すればいいのかが全然わからないまま、最初の一日が始まる。これはけっこう、いろんな職場で起きていると思うんですよね。
あと、「村社会」的な組織では、ものすごく強力な暗黙の規範があるにもかかわらず、それが「明示されていない」という特徴があります。「ここではこういうことをしてはいけない」「こういう行動が褒められる」といったルールはあるんだけど、それが言語化されていない。だから、つねに空気を読んで察しなければならない。
誰がどういう人なのか、そこにどんなルールがあるのかわからないまま、新人はそこに投げ込まれることになります。結果として、うまく空気を読める人は評価されやすいのですが、そうではない人は周縁に追いやられていくので、「居心地が悪い」と感じる人がつねに一定数いることになりがちです。
チームを「孤立」させる要因に
安斎 「村」のなかでずっと閉じこもったままでいられるなら、そういう組織もアリなのかもしれませんが、いまは組織内外での流動性が高まっている時代です。ずっと組織のかたちを固定して、同じメンバーでやるんじゃなくて、時代や環境の変化に合わせて組織やメンバーを撹拌しながらやっていかないといけない。
要は、昔よりも「クラス替え」の頻度が上がっているんですよね。そういう時代の中で、外から来た人に歓迎的でないマネジメントをやり続けるのは、どう考えても得策でありません。「村長」とそのフォロワーだけで凝り固まったチームになってしまうと、組織内でも孤立していくことになります。