【中国漁船が押し寄せる】日本近海に眠る“とてつもない資源”とは?
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

日本は資源大国!? 資源をめぐる攻防とは?
日本近海の海底にはメタンハイドレートやマンガン団塊、レアアース泥などの埋蔵が確認されています。メタンハイドレートは「可燃性氷」と呼ばれ、海底下に凍結しているメタンガスを含む物質です。もし、これらの資源を商業ベースで採取・利用できる技術が確立すれば、エネルギー自給率を高める可能性があります。
一方で、海底の深度や地質構造の複雑さ、海流や潮汐の影響など、開発には高度な技術と膨大なコストが必要です。仮に実用化が進んだとしても、海底の掘削が海洋生態系に与えるリスクは無視できません。海底での作業が事故を引き起こした場合、環境破壊や漁業への影響が懸念されるため、環境調査と安全対策を徹底する必要があります。
また、その是非はともかく、二酸化炭素削減という地球規模の課題があるなかで、メタンなどの化石資源を新たに利用することへの批判もあるでしょう。技術面でも、探査ロボットや掘削装置の開発がカギになると考えられ、政府と民間企業が共同研究を進めています。
日本企業の取り組みは?
日本国内では海底資源の探査技術を発展させる取り組みが進みつつあります。
例えば、政府系機関や民間企業が共同開発を行い、無人潜水機(ROV)や海洋ロボットを用いた深海の資源調査を定期的に実施しています。これらの探査装置は、水深数千メートル級の海域でも海底の地形や埋蔵物を高精度で把握できるといわれています。
近年は人工知能(AI)を組み合わせた自律運航技術の研究も加速しており、作業員の安全確保やコスト削減が期待されているようです。実際にメタンハイドレートの小規模試掘において、海底土壌の採取やサンプル分析で一定の成果を上げた事例があります。
日本が海洋国家として生き残るために
さらに、海底採掘が現実味を帯びるにつれて、海洋インフラの整備にも注目が集まっています。例えば、掘削拠点に電力を供給するための洋上風力発電や海底ケーブルの整備をあわせて検討する動きがあります。ここで重要なのは、こうした技術やインフラが単に新しい資源開発に役立つだけでなく、将来的には災害対策や国土強靱化の観点からも大きな意義を持つかもしれないという点です。
日本が海洋国家として生き残るためには、日本の領域が持つ地理的特性を活かしながら資源開発の総合戦略を策定し、周辺国との摩擦を最小限に抑えつつ持続的な経済発展を目指す必要があります。
多様な資源を巡る隠れた攻防
こうした状況は、日本が海底資源開発に本腰を入れることで、地理的な制約を克服しようとする挑戦です。そして、我々の日常生活をさらに豊かにするためにも重要なことです。
成功すれば新しいエネルギー源を確保すると同時に、海底資源開発の技術立国としての立場を強化できます。
日本のEEZには、水産物を含む多様な資源が豊富に存在します。遠洋漁業の分野では、マグロやカツオなど国際的にも需要が高い魚種が獲れるため、漁獲量と資源管理を巡って国際競争が激化しています。近年、中国漁船による違法操業が問題視されており、尖閣諸島(沖縄県)周辺などで日本との摩擦が生じています。これは水産資源を含む経済的利益の確保を狙った動きと考えられます。
(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)