
渡辺 努
消費税減税で潤うのは家計ではなく売り手?「価格転嫁率」が示す減税の“落とし穴”
消費税減税が参院選の争点に浮上している。各党がこぞって税率の引き下げを打ち出す一方で、「減税すれば消費者は必ず得をするのか」という本質的な問いは置き去りにされている。価格への転嫁が不完全であれば、減税の恩恵は売り手に吸収され、消費者の懐は潤わない可能性もある。日本で実施された3度の消費増税や、欧州の減税事例から何を学べるのか。価格の転嫁率という視点から、減税の実効性に迫る。

コメの値上がりが止まらない――。2024年夏以降、日本の食卓を支える主食であるコメの価格が上昇し続け、「令和の米騒動」とも言うべき状況が生まれている。本稿では、POSデータを用いてコメの価格が上昇した2局面を徹底検証。「値上げ抑制→在庫切れ多発」の第1期と、「積極的な値上げ→在庫安定」の第2期を比較し、今後必要な政府の対応を考察する。

日本銀行は昨年7月から国債の保有を段階的に減らしており、来月にはその方針の中間評価が予定されている。国債市場との関係が深いのは確かだが、それだけを根拠に減額ペースを決めてよいのかは疑問が残る。筆者と藪友良教授との研究では、所得が減ってもすぐには消費を減らさない「ラチェット効果」が、現金や預金の保有にも働いていることが示唆された。こうした傾向を踏まえれば、日銀は国債減額を急がず、慎重に対応すべきである。

トランプ関税を「課される側」の日本が受けるのは、典型的な負の需要ショックである。今、日本経済に求められているのは、利下げによる金融緩和で円安を促し、財政出動によって物価と景気を下支えする戦略だ。だが、トランプ関税という非常事態でも、日銀は利上げ姿勢を崩していない。日銀が利下げに転換せず機会主義的な姿勢に終始すれば、「賃金と物価の好循環」が失速し、かつての慢性デフレに逆戻りしかねない。

トランプ関税が、自由貿易を前提に築かれてきた世界経済の枠組みに大きな揺さぶりをかけている。各国・各企業が戦略の再構築を迫られる中、こうした関税措置は物価にどのような影響を及ぼすのか。自由貿易の歴史的な背景やインフレ率の推移を手がかりに、トランプ関税の本質的な影響を読み解き、今後の日本の物価動向を展望する。

#39
2013年春から始まった異次元の金融緩和。この時の物価上昇は一時的だった。なぜ今回の輸入物価の上昇は、「賃金と物価の好循環」へとつながりつつあるのか。今回の物価上昇の特徴を解き明かした上で、25年の賃金と物価の正常化を左右する意外な施策を紹介する。

日本銀行は今年3月に利上げに踏み切り、7月には追加利上げを敢行した。しかし、植田日銀の利上げ手法は中央銀行の信認を揺るがしかねない。その理由は、1989年の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議論を見ると理解できる。

「ベアなしで当然」の時代は終わった…さらなる賃上げへ「ピーターパン」は飛べるのか?
日本銀行の黒田東彦前総裁は2015年6月、ピーターパンの「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」を引用した。黒田前総裁が飛ぼうとしても成し得なかった「賃金と物価の好循環」は、なぜ今になって実現しつつあるのか。その原動力から物価の動向までを分析すると、さらなる好循環を左右するのは、「ベアなし」の古い認識から“飛ぶ”ためのナラティブ(物語)であると分かる。

マイナス金利解除は時期尚早か、「大混乱統計」の再推計でインフレ減速懸念が浮上
3月にも日本銀行がマイナス金利政策を解除するとの見方が浮上している。政策判断を左右するのはサービス価格の動向だが、統計局の統計を再推計してみると、インフレが減速している可能性も見えてきた。マイナス金利解除は時期尚早の可能性もある。

東京の物価上昇率が大幅に低下したワケ「一時的要因」を除外して見えた正確な実態とは?
1月26日に発表された東京都区部の消費者物価上昇率(1月分、中旬速報値)は、前月から大幅に低下した。物価を見る時のポイントは、一時的な要因を除去した上で、傾向を観察することだ。日本銀行のマイナス金利解除にも影響を与えるのは、サービス価格の動向だ。

海外投資家が「日本で少数派のシナリオ」を市場に織り込みつつある厄介な実情
昨年10月に出版した『世界インフレの謎』(講談社現代新書)では、世界でインフレが起きているのはなぜか、そして、日本の物価はどういう状況なのかを解き明かそうとした。本書は昨年6月から8月頃の私の理解に基づいている。米欧を中心とする世界の物価に関して、私の考えは今でもほとんど同じだ。ただし、日本の物価については1年前に想定していなかった新たな学びがあった。

借金1000兆円超の日本だからこそ、今「財政出動」をためらってはいけない理由
昨年春から上昇し始めた消費者物価の影響を受けて、今年の春闘の賃上げ率は高い伸びとなった。岸田文雄首相の掲げる「賃金と物価の好循環」が視野に入ったとの見方も増えている。一方、早晩デフレに逆戻りするとの悲観的な見方も少なくない。そこで、慢性デフレから賃金と物価の好循環へ移行するためのポイントを整理し、その過程で立ちはだかる壁と、政府に求められる対応策を提示しよう。

物価予測のミスを闇に葬る日銀…反省しない「悪いクセ」をいつまで繰り返すのか?
日本の消費者たちは、物価は据え置かれるのではなく毎年上がるものと見方を大きく変えている。一方、この方向転換の波に乗り切れずデフレマインドを払拭できていないのが、日本銀行とエコノミストたちだ。両者の予測にはある悪い「癖」が存在する。

1年前から続くインフレは、一過性か、持続的か。筆者の研究室が実施した物価に関するアンケートを基に、このインフレが持続的であることを示そう。

日銀の黒田東彦前総裁が講演で「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言してから1年がたった。この発言の根拠となった調査の続きを公開し、消費者の値上げ耐性を分析。さらに、物価と賃金を持続的に上昇させるための政策について論じる。

日本銀行の黒田東彦総裁を含む総裁別「頻出ワード」を抽出した。すると、政策の違いは「ある単語」に表れていることが分かった。植田新総裁が「ある単語」を多く語るかどうかは、今後5年の金融政策を見通す上でも重要だ。

アベノミクスで掲げた物価目標「2%」の見直しが議論されている。タスク管理アプリや歯医者を例に考えると、内容を理解しやすくなる。

前編では、物価目標「2%」の見直しとは、「遊び」のある物価目標へ移行することだと説明した。後編では、これが果たして機能するのか、有名なテイラー原理を基に解説する。

前編では、10年物国債金利の他に「オーバーナイト金利」を市場に委ねる選択肢があることを紹介した。後編では、市場が決定するオーバーナイト金利の水準がどのような値になるかを試算した。浮かび上がったのは、長年にわたり議論されてきたゼロ金利の壁だ。

日本銀行が国債の大量購入に迫られていることから、「固定された長期金利を市場に委ねよ」という定番の主張がある。実はここには、見逃されているもう一つの極めて重要な市場がある。日銀は“二兎”を追うが故に、不均衡から逃れられないのだ。
