次郎(中島歩)と鉢合わせ
北村匠海の演技が見事

 とそこへ千代子(戸田菜穂)が見送りに来て、ここで彼女にあげてしまうのではと思ったが、さすがにそんな失礼なことはしなかった。千代子だって赤いバッグに気づいているのではないだろうか。いっそいつも献身的なおしん(瞳水ひまり)にあげてもいいのではないか。余談だがおしんにはちゃんと「宇戸」という名字もついている。

 嵩が朝田家を訪ねると、次郎(中島歩)と鉢合わせ。

「のぶさんに祝言の日取りをお伝えに来ました」と次郎の言葉を聞いて、すべてが遅かったことに気づくのだった。そのときの嵩の静かな絶望の表情が見事だった。

 このシーンに関して、朝ドラで初婚相手と再婚相手が遭遇するのは稀ではないかと指摘した人がいたのだが、そこはそんなに重要視するところだろうか。筆者的にはあまりピンと来なかったが、言われてみれば、興味深い事象なのかもしれない。念のため、記しておく。

 なんだかんだとのぶに自分の気持ちを伝えることを先延ばしにしてきた嵩。卒制の完成までというのは、就職が決まって経済的な基盤ができたら結婚を申し込むという男性にありがちな思考に近いといえば近い。

 だが結論を出すことを恐れて先送りしていたともいえるだろう。そのせいでのぶは結婚を決めてしまったのだ。

 ただ、モデルのやなせたかしとその妻・暢はこの時代まだ出会っていないため、ここでふたりの恋が成就するようには描けないのだろう。それでこのようなもどかしすぎる状況になっているのではないかと推察する。

 嵩がとぼとぼ駅に向かう途中、屋村(阿部サダヲ)が現れる。

「絶望の隣は希望ですから」と寛に影響され珍しく前向きな嵩に屋村は容赦ない。

「本当の絶望はこんなもんじゃないよ」「それでも人生は続く。歩き続けるんだな」「絶望の隣は絶望の2丁目かもな」

 こんなふうに冗談を言ってくれたほうが気は楽かもしれない。

 寛のように徹底的にいいことを言うか。屋村のようにふざけるか。人それぞれ、好みの問題だ。

「祝言の日取りを伝えに来ました」で沈黙…北村匠海(嵩)の“崩れそうで崩れない顔”が刺さる【あんぱん第43回レビュー】