独身生活最後の晩に
ラジオ体操??
嵩の絶望にこれっぽちも気づいていないのぶ。独身生活最後の晩、妹たちとの別れを惜しんで、部屋のなかでラジオ体操をする。朝ドラ制作者たちが部屋のなかで行えることを頭を絞って考えた結果、ラジオ体操になったのだろう。なかなか苦しいものがあるが仕方ない。部屋が狭くて、手足が伸ばせないらしく、屈伸みたいなことしかできていない。
階下では、羽多子(江口のりこ)が結太郎(加瀬亮)の帽子にしんみり語りかけていると、体操の声がして「うるさいね」とツッコむ。『あんぱん』では江口のりこと阿部サダヲがコメディリリーフの役割を果たしている。ふたりの存在がなかったからかなり息苦しいものになっていただろう。
そして、いよいよ祝言の日。朝田家、若松家の両家だけで行われたのは、やっぱり豪(細田佳央太)のこともあるからだろうか。のぶのあでやかな花嫁衣装姿にみんな見とれる。でもセリフがない。
「きれい~」とか「馬子にも衣装だな」とかありがちなセリフはいっさいなく、演技巧者たちが表情だけで感情を演じるコーナーになっていた。そして、朝ドラ恒例の家族集合写真撮影。
その頃、嵩は、東京の下宿で、絶望にこたつと一体化(by健太郎〈高橋文哉〉)しようとしていた。
健太郎に促され、銀座に出る。その景色を健太郎は「柳井くんの絵みたい」という。
嵩が伯父の死に目に会えずとも懸命に仕上げた卒制の絵。銀座で大衆が前を向いているなかで、ただひとり、のぶらしき赤いバッグを持った女性が背中を向けている。それはいま思えばまるで、嵩から離れていくようにも見える。そんな不吉な絵を描いてしまった嵩は、こうなることを予測していたのかもしれないし、こういう絵を描いたことで実現してしまったのかもしれない。
嵩の絵についてその解釈をいくらでも語れそうだ。そもそも、銀座の街を満喫する民衆に対して背を向けるのぶは、自由から背を向け軍国主義に走っているというふうにも見えるし、半面、誰もが同じ道を歩むなか、たったひとりでも意思を貫くことの現れにも見える。いろんな見方ができるおもしろい絵である。
健太郎と銀座のパン屋に立ち寄った嵩が、そこで意外な人物と再会する。
登美子(松嶋菜々子)であった。嵩の合格発表の日、寛が現れたため、登美子が身を引いて以来である。嵩的には受験前から会っていないし、その別れもじつに気まずいものだった。
のぶの結婚後、登美子が出てくることで、嵩にとってのぶと登美子の役割は似ているように感じる。その役割とは、女難である。
