「毎回求められることが違う中で
何を表現するかが僕の仕事」

「演じる上で制約がない演技なんてないと思うんです。確かに声優の仕事は尺が決まっていますが、実写ドラマだって同じく、好き勝手やっていいわけではないですよね。この間で、この位置で止まってくださいというような要求もありますし、むしろ、声優の演技よりも難しいかもしれません。

 声優や俳優の区別なく、毎回求められることが違う中で何を表現するかが僕の仕事だと思うし、それを楽しんでいます」

 山寺が七色の声を持ち、声の仕事から実写ドラマ、司会まで幅広くやっているのは、求められることが違う中で、自分を規定せず、表現の可能性を追求しているからかもしれない。

 例えば、『鎌倉殿の13人』の第46回に僧侶・慈円役でゲスト出演したとき、長台詞を朗々と語った。ややこしい家系の説明が実に聞き心地よかったが、台詞を暗記する苦労があった。

「あれは三谷幸喜さんの僕へのラブレターと感じました。声の仕事だと台本を読みながらやりますが、ドラマは台本を手放さないとならない。必死で覚えました(笑)」

 朝ドラはすでに4作目。どのドラマも生き生きとユーモアを交えながら自由自在に演じているように見える。ただ映像は声の仕事とは勝手が違うとも言う。

「声の仕事をやるとき、絵に声を貼り付けたようではなく、あたかもそこにいる人物がしゃべっているようでありたいと心がけています。そのため、声だけでいろいろなことを表現できる力は鍛えられているのですが、実写で自分自身の肉体で表現するとき、声の表現が先に立ち、肉体と声が乖離してしまうおそれがあって。それには常に気をつけています」

 声の仕事は、他者の描いた絵や他者の演技に合わせながら、自分なりの表現をしていくという、特殊技能である。

「自分の声を録音して聞くと自分の声に聞こえなくて違和感を覚えると言いますよね。僕の場合、声の仕事に関しては長年やってきて、自分の声や演技を客観的に分析できるのですが、映像作品ではまだその域には達していないような気がして。