
アドリブの余裕もないほどすごく緊張して
『あんぱん』現場に入った
「あれは台本に『おはよう』と書いてあったのを演出の野口雄大さんが付け足したんです。『おーはーよー』と直した台本が数日前に送られてきて。ありがたいけれど、それがオンエアされたら、僕がアドリブで狙ったと思われるじゃないかと。やっぱりそう思われましたよね(笑)。
クランクインではなかったのですが、初登場のシーンからアドリブをかますような勇気は僕にはないです。すごく緊張して現場に入っていましたから(笑)」
なにしろ『あんぱん』は、36年も続いているアニメ『それいけ!アンパンマン』のはじまりの物語でもある。
「やなせ先生と奥様がモデルになっている作品なので、何らかの形で関わりたいとはずっと思っておりました。出演のお話をいただいて嬉しかったのですが、役がやなせ先生の恩師と聞いて、これは頑張らなくちゃとプレッシャーも感じました」
山寺のクランクインは、嵩の入学した美術学校・図案科の歌「ワッサワッサワッサリンノ~」という奇妙な歌詞の歌を学生たちがカフェで歌っていて、軍人に咎められる場面だった。ここで座間は怯まず毅然と歌い続ける。そのときの山寺の意思の強そうな表情が印象的だ。
「ここに座間先生らしさが出ていると思ったので、ものすごく意気込んでやったら、野口さんに『意気込み過ぎ』と抑えられてしまいました(笑)。軍国主義に対抗するのはいいけれど、いい大人なんだから、軍人を諌めるにしてももう少し余裕をもって、というわけです。
座間は軍隊で訓練していた経験があり、戦争に駆り出される前に戦争が終わったという台詞もあります。あからさまに反抗はできないにしても、歌を禁止するよりももっと大切なことがあると、経験上、思っているのでしょう。
ここだけは譲れないというプライドをしっかり持っていた方なのだなというふうに僕は捉えましたし、野口さんともそうお話しました」
座間を演じるにあたり、やなせたかしの著書を読み返し、恩師についての記述をさらい、さらにスタッフが用意してくれた様々な資料を読み込んだ。