
座間先生のモデルだった杉山先生が
「銀座に行け」と言ったワケ
「やなせ先生の本の中に杉山先生の言葉として、『君たちはすでに紳士だ。自由に責任を持ちたまえ』という言葉があります。ドラマにはその言葉は出てきませんでしたが、そういう気持ちが座間先生にもあるのだろうなと。
机にかじりついて勉強するよりも銀座に行けと言ったのも、モデルだった杉山先生が言ったことですけれども、それも「いい加減でいいよ」ということではないんですね。学校なんかつまらないから街に出て遊んだほうがいいってことではなく、芸術の分野で新しいことをやるからには、いろんなものを吸収した方がいい。「生きる上で大事なことを広い社会から学ぼうよ」という、あの時代には珍しい考え方だったのでしょう。
また、自分の心の声をちゃんと聞けというのは、『アンパンマン』のテーマであり、ドラマでも繰り返し言われている『何のために生まれてきたのか』につながっていくのかなと思いました」
「自由に責任を持つ」、その「自由」という言葉が『あんぱん』では印象的に響く。戦時中といまとでは、状況が全然違うが、山寺自身は、自由というものに対してどういう考えを持っているのだろうか。
「僕は会社勤めをしていませんし、組織に属していないので、基本的に何をしたっていいはずなんです。こんなに自由な状況はありません。もちろん、法律や社会規範、ルールは守りつつですが、基本的に自由なはずなんです。にもかかわらず、自分でいろんなことを不自由にしてしまっているかもしれないと思うことはあります。
例えば僕は、他者の目をものすごく気にしてしまうところがありまして。いまも、こうやって皆さんの顔を見ながら、僕の回答はどう思われているだろうかと、他者の評価を気にしてしまう(笑)。それこそまず、自分の心の声を聞かないと、ですよね。『アンパンマン』でそれを学んでいるはずなんですけどね」
声優は、アニメの画に声(魂)を吹き込む仕事である。台詞を言う尺や演技の解釈があらかじめ描かれた絵に合わせることになる(絵が完成していない場合もあるが)、そのため演技の自由度が少ないと言う話も聞く。山寺はそういう制限のなかで自由を獲得する方法や秘訣を持っているだろうか。