子会社という言葉を使わない、ワンチームとして統合する
大坪 グループ企業だったスバルITクリエーションズを24年に本社に統合されました。この狙いは何だったのでしょうか。
辻 DXを推進する中で、これからの企業はデジタルを真剣に捉え、中心に置かなければ生き残れないと痛感するようになりました。特に自動車業界は機械系のものづくり(ハードウエア)が基底にありますが、今後は一般的にソフトウエア・デファインド・ビークル(ソフトウエアにより機能が制御される車)を考えていく必要がある。ハードだけではなくソフトも含めた両面から車造りを進めていくには、IT化を外部に委託するだけでは不十分で、知識のある人財が社内にいることが重要になります。
グループ企業のスバルITクリエーションズには約300人の社員がいましたが、基本的には依頼されたことを実行するという役割にとどまっていました。私は入社直後から、それではもったいない、むしろ、SUBARUグループ全体の課題解決に貢献してもらうために、本体と一緒になってワンチームで動く方が効果的だと考えていました。SUBARUグループ全体の課題に取り組むワンチームになるべきだと考え、いろいろな人に説明するうちに危機感を分かってくれる人も増えてきて、統合を進めることになりました。
大坪 どのようなプロセスで進められたのですか。
辻 構想と準備に1年、実際の統合に2年かけました。特に重視したのは「制度の整合」「業務の整合」「心の整合」です。制度面では就業規則などのルールを擦り合わせ、業務面では決裁プロセスなどを統一していきました。最も注力したのが「心の整合」です。システムや仕組みは1年程度で整備できますが、チームに加わる全員がSUBARUで活躍できる人財になってほしかったので、誰もが「SUBARUの一員として活躍したい」と心から思えるようになることを重視しました。最後の1年はSUBARUの車を好きになってもらったり、対等な関係であることを強調したりするなど、気持ちの面での準備に注力しました。
大坪 具体的にはどのような工夫をされましたか。
辻 ワンチームとしての意識を高めるため、スバルITクリエーションズの社員が肩身の狭い思いをしないようにすることに腐心しました。統合した社員たちは、より多くの業務を担当し、さまざまな部門と直接やりとりすることが増える。その際、「元子会社」などという言葉を決して使わないようにと、全社の経営会議でお願いし、それぞれの部門で徹底してもらいました。
スバルITクリエーションズ側にも、SUBARU本体とは分け隔てはなく、気持ちは対等だということをきちんと伝えました。少数ずつ先行してジョインしてもらうことで、統合後にすぐに戦力として活躍できるよう準備を整えました。
統合キックオフ時には、社長や歴代CIO、スバルITクリエーションズの社長に動画メッセージを作成してもらい、送り出す側と受け入れる側双方の思いを伝えました。これらをイントラネットに掲載し、全社員が見られる形にしました。こうした取り組みもあって、良いスタートが切れたと思います。

辻 裕里 執行役員CIO兼IT戦略本部長
つじ・ゆり●工学部卒業後、日本IBMでSEとしてキャリアをスタート。結婚後、子育てのため地元の製造業に転職し、SAPプロジェクトPM、IT管理部長、総務部長を経て、グループCIOを3年間務める。2019年7月にSUBARUに入社し、情報システム部長として社内システムを統括。22年4月よりサイバーセキュリティ部長を兼務し、23年にはIT戦略本部副本部長に就任。24年4月から現職に就き、全社のIT/DXを推進している。
大坪 統合後、旧スバルITクリエーションズの社員たちはどのような役割を担っていますか。
辻 スバルITクリエーションズは三十数年前にコスト可視化のために設立され、社内システムの構築・運用を担ってきました。外販も一部行っていましたが、主に社内向けの業務でした。統合後はSUBARUのデジタル戦略全体の実装・開発を担当しています。
以前は個別の部門からの依頼で動いていましたが、今はIT戦略本部の中で、より戦略的な役割を果たしています。組み込み系やコネクテッド系の人財も含め、全体としても最適な組織編成になりました。
大坪 全社のデジタル戦略の開発や実装を担っているということですね。
辻 統合してから約1年たちましたが、今ではSUBARUの一員としてより幅広い領域で十分に力を発揮してくれています。統合は大成功だったと思います。
後編では、製造業におけるDXを成功させる秘訣や、女性ならではの視点を生かした生産性向上の施策、社内のデジタル人財育成などについて詳しく紹介する。