全社でベストプラクティスを共有し、浸透させる──グローバルなデジタルドリブン経営を目指すアシックスのDX深化戦略

アシックスでは、グローバルのシステム統合によって、バックエンドの効率化とビジネスの成長の両面で結果を出している。このチャレンジそのものが、高度なデジタル人財の採用や育成にも有利に働き、さらに改革が加速する好循環が生まれているという。アシックス代表取締役社長COO富永満之氏インタビューの後編では、実装から定着・深化のフェーズに入った同社のDXの現在地を、人財の話題を中心に聞いた。(聞き手/元DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長、現論説委員 大坪 亮、文/ライター 小林直美、写真/リアル・フォトグラフィ 近藤宏樹)

地の利と得意分野を生かしたデジタル組織が世界に点在

大坪 デジタル化の推進を支える人財について伺いたいのですが、現在、IT人財の構成はどのようになっていますか。

富永 IT人財は全世界で約700人おり、ERP(基幹システム)の拠点がオランダ・アムステルダム、Eコマースやデジタルマーケティングの拠点が米国・ボストン、そして、生産管理システムの拠点がグローバル本社のある神戸──というように、拠点ごとに役割を分担して全世界をカバーしているのです。さらに、レース登録子会社は主要地域に点在しています。

大坪 ERPの拠点が海外、それもアムステルダムにあるのがユニークですね。

富永 アムステルダムにはもともとアシックスヨーロッパ(AEB)の本拠がありますし、立地的にもSAP本社があるドイツに近く、優秀な人財を集めやすいのです。システム統合のプロジェクトの立ち上げに当たっては、現地で必要な人財を一人一人採用し、日本からも精鋭を呼び寄せてチームをつくり上げ、彼らが責任を持ってシステムをグローバルに展開していきました。

大坪 IT人財は今や激しい争奪戦ですが、優秀な人財を採用する秘訣は何ですか。

富永 ERPは最新のSAP、デジタルマーケティングはセールスフォース、マスターデータマネジメントはインフォマティカといった一流ソフトウエアをそろえ、ランニングエコシステムなどのフロントエンドにも力を入れていますから、「先進的なIT環境がある企業でチャレンジしたい」というモチベーションの高い人財が集まる状況ができています。マネジメント層にも、各拠点の現地在住者と他国からの駐在者が交じり合い、かなり多様性が高い環境になっています。

大坪 給与体系は海外と日本で違うのでしょうか。

富永 全く違います。コロナ禍以降のデジタル人財の高騰もあり、マーケットプライスに合わせて設定している形です。

大坪 待遇の違いにまつわるあつれきはないですか。

富永 国が違えば物価も違うし、給与体系も違うということで理解してもらっています。日本人が現地で仕事をすれば現地の給与になるので、不平等というわけではないと考えています。