阿部サダヲと吉田鋼太郎の
名演にランプがいい仕事

 朝田家は御免与町でどういうポジションだったのか、商店街でそれなりにうまくやっていたのではなかったか。でもこんなふうにあっという間に仲間外れになってしまうとは、陸軍はそれだけ影響力が大きいのだろう。

 頑なに乾パンづくりを拒む屋村(阿部サダヲ)に釜次(吉田鋼太郎)は土下座して乾パンを焼いてくれるように頼む。名誉が欲しいわけでも金が欲しいわけでもない、ただ家族のことを心配しているのだ。

 ここで朝田家と御免与町の関係がわかる。

「この狭い町に暮らしゅうきこのままじゃ……。おまんも10年もここにおったらわかるじゃろう」

 と苦しげに言う釜次。やっぱり、閉ざされた町の同調同圧があるようだ。こういうのはホラーより怖い。

 だが屋村は泣き落としを聞くタイプではない。淡々と出ていこうとするが、釜次は「おまんとはそう簡単に切れる腐れ縁やない」と粘る。

 そしてそこまで拒むのは何か理由があるからだろう、でもそれは聞かない、ただ家族のために乾パンを作ってくれと交換条件的なことを持ちかける。ここでの釜次は別人みたいに渋かった。

 言わなくていいと言われると、ひねくれ者の屋村は話しはじめる。こういう人いるいる。釜次がそこまで狙ってやっていたとしたら、なかなかのものである。実はこっそり爪を隠しているタイプだったりして。

 屋村の秘密はここではまだ視聴者には明かされない。焦らす!

 屋村の秘密に関して書けないので、この場面の見どころを解説しよう。

 この場面、阿部と吉田のほかにいい仕事をしているのが、ランプである。

 この町を出ていくと言った屋村を力任せに止める釜次。でも腰が痛くなって地面に崩れる。助けようと手を差し伸べる屋村。その手をはたく釜次。かちんとなった屋村はテーブルの上に乗ったランプを持って出ていこうとする。

 再度、釜次と向き合うとき、そのランプが間に置かれ、灯りがふたりを照らす。屋村がランプを持つ必然(夜出ていくため)、それを生かした照明効果。ランプの灯りが、屋村の秘密を照らし出すように見える。阿部サダヲ、吉田鋼太郎、名優がランプに照らされ、いい芝居をした。

「日本の朝には阿部サダヲが必要だった」それでも屋村が出ていった理由〈本人コメント付き〉【あんぱん第45回レビュー】