
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第44回(2025年5月29日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
学校に現れた
“いい声”の有賀中佐(下総源太郎)
朝田パンは「あんぱん」じゃなくて「かんぱん」を作れと軍から命じられる。が、はい、そうですか、とはいかず……。
結婚して若松のぶ(今田美桜)になったのぶ。前回・第43回からタイトルバックのクレジットが「朝田のぶ」から「若松のぶ」に変わっていた。登場人物(とくにヒロイン)が結婚してクレジットが変わる感慨も朝ドラの楽しみのひとつだ。
のぶは新居・高知から列車に乗って御免与町の朝田家に戻って来た。新婚だが、夫の次郎(中島歩)は海外に出かけてしまったため、その間、実家から通うことになったのだ。これではなんか、全然結婚した感じがなく、いつもと変わらないがまあいい。名前だけは「若松のぶ」でフレッシュだ。
ある日、学校に陸軍中佐・有賀功(下総源太郎)が来て高説を垂れる。有賀中佐はとても口跡がよく、話が聞きやすい。それもそのはず、演じている俳優は舞台俳優である。劇団転位・21、劇団燐光群という歴々たる劇団で活躍し、新国立劇場のシェイクスピアシリーズなどにも出演している。
あまりにいい声でつい話に聞き入ってしまいそう。劇中、子どもたちはすっかりお国のために兵隊さんになる気持ちを強めているように見えた。
そんな流れから、のぶは、兵隊さんに食べてもらうかんぱん作りの依頼を受ける。朝田家の面々は名誉なお役目と張り切るが……。ひとり、蘭子(河合優実)だけが浮かない顔をしていた。