ケンブリッジ大教授が日本で大感激した「六本木のフレンチ」と「早稲田の焼鳥屋」の名前写真はイメージです Photo:PIXTA

大の親日家で、『検証 日本の「失われた20年」日本はなぜ停滞から抜け出せなかったのか』や『ラーメンの歴史学――ホットな国民食からクールな世界食へ』の著作があるケンブリッジ大学教授、バラク・クシュナー氏に、インバウンド激増の真相と「日本の食の魅力」について話を聞いた。(国際ジャーナリスト 大野和基)

日本は「食の観光」で聖地になった

――訪日外国人が過去最高に増えています。なぜ外国人、特に欧米人が今こぞって日本に行きたがるのでしょうか。

 ひとつは、日本は非常に物価が安いから。長年、多くの欧米人が日本を訪れたかったのですが、円高で物価が高いイメージがありました。それこそ私が初めて日本に来た時は1ドル85円でしたよ。ただし、私は日本が「安い」(cheap)のではなく、「安価」(inexpensive)だと言いたいですね。

 次に、日本がクールだから。日本のポップカルチャーは西欧やアメリカの若者の間で一種の常識となっており、ゲームやアニメ、マンガは人気があります。日本は安全で、大人も子どもも楽しめる。さらに公共交通機関が充実していて移動も楽ですし、料金も安く、時間も正確。中央線で自殺者が出ない限りは、おおむね時刻通りです。

 もうひとつ大きな魅力は、食です。この10年ほど、西洋のテレビ番組で日本食を取り上げることが増えました。私の妻をはじめ、日本人は本当に「食通」です。とても痩せている人たちなのに、いつも食べ物の話ばかりしている。それに今は欧州の主要都市で柚子、しょう油、豆腐、パン粉など日本の食材を扱うようになりました。ちょっと有名な料理人なら、必ず日本の食材を使っています。

 日本は今や「食の観光」で聖地なのです。ただ、私が心配なのは日本の人口減少、人手不足です。飲食店で「スタッフが足りないので休業します」という貼り紙を見かけることが増えました。移民問題を議論せずにして、日本がこの観光市場を維持できるのでしょうか。

――あなたは日本の飲食店にも詳しいですか?

 私はグルメ評論家ではありませんが、日本ではいろいろなレストランを体験してきました。焼き魚定食を食べる大衆食堂も、蕎麦屋も、町中華も好きです。新しいお店に行くと新しい才能を発見できる。才能あるシェフを見つけるのは本当にエキサイティングで、食べ物の味だけでなく、レストランで受ける歓迎も楽しみなのです。

 例えばですが、六本木にある「ブーケ・ド・フランス」というフレンチレストランと、早稲田にある「きなり」という焼鳥屋さんには、ある共通点があります。