「騒音おばさん」はテレビ番組のネタに
それを批判した放送局は?

 しかし、人の人生を簡単に狂わせうる動画が日々無数に垂れ流されている状況はどう考えても危ういので、各SNSにご意見物申すくらいのことはしてもいい時期に来ているのではないかと、個人的には感じている。

 大衆が作り出す巨大なうねりを前に、折に触れて違和感を表明してきたメディアはいて、それはたとえばNHKである。国営の強みというべきか。

 ほぼ強制徴収の受信料と垢抜けない番組作り、「良いこと言いたがりで問題意識高そう」など、国民に疎まれがちな要素も多分に備えるNHKだが(面白い番組も多いし子育て世帯はものすごくお世話になる)、民放含む他メディアの暴走を監視監督してくれる役目は勇気をもってちゃんと担ってくれていた。

 騒音おばさん騒動の時は、話題があまりにも広がりすぎてみんながネタにし始め、『めちゃイケ』(フジテレビ)では騒音おばさんのパロディまでやった。

 同番組は筆者も好きだったし、面白かったが、NHKは番組を通して「あのおばさんをおもちゃにしたのでは」という問題提起を行ったことがある。

 言われてみればたしかにそうで、「みんな笑ってたし面白かったから」という免罪符をもとに、制止やたしなめる意見を「盛り上がってるのに野暮言うな」と切り捨て、個人をどんどんいじっていくのは完全にいじめの構造である。

 テレビやネットなどは参加する人数が多くなるほど個人の罪悪感を薄れさせる仕組みがあるから、テレビ・ネットの利用者は自分に対しての警戒心を一、二段階引き上げておくくらいが丁度よさそうである。

 今晒し動画界隈では「みんなやってるし面白いからいいでしょ」がまかり通っている。この潮流にいきなり方向転換をお願いするのは現実的でないので、まずはちょっと小石が投じられるくらいの、ささやかな意識の変革を期待したい。

 あとは最近AIの進歩が著しいので、SNS運営各社は、無許可撮影らしき気配の動画には登場人物の顔に軒並み勝手にぼかしが入るような技術を開発・導入してはくれまいか。