【世界史ミステリー】なぜ永楽帝は巨大艦隊を作ったのか? その本当の目的がすごかった
「地図を読み解き、歴史を深読みしよう」
人類の歴史は、交易、外交、戦争などの交流を重ねるうちに紡がれてきました。しかし、その移動や交流を、文字だけでイメージするのは困難です。地図を活用すれば、文字や年表だけでは捉えにくい歴史の背景や構造が鮮明に浮かび上がります。
本連載は、政治、経済、貿易、宗教、戦争など、多岐にわたる人類の営みを、地図や図解を用いて解説するものです。地図で世界史を学び直すことで、経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの世界史講師の伊藤敏氏。黒板にフリーハンドで描かれる正確無比な地図に魅了される受験生も多い。近刊『地図で学ぶ 世界史「再入門」』の著者でもある。

明を襲った銀不足。さぁ、どうする?
建国間もない明では、ある問題がありました。元では銀が基軸通貨とされましたが、当時の中国では銀の産出量が不足し、市場への供給が十分とは言えない状況にありました。
元の時代はモンゴル帝国のネットワークを介してユーラシア各地から銀を循環させて何とか間に合わせていたのです。明でも引き続き銀が基軸通貨とされましたが、モンゴルから独立したことでそのネットワークから外れ、銀の供給が不足することになります。ここで問題です。
問 銀の国外への流出を防ぐため、洪武帝は何をした?
正解は、海禁と呼ばれる貿易制限です。洪武帝は銀の国外への流出を防ぐため、貿易制限を敷きます。海禁は、朝貢貿易という、国家の承認した正式な貿易を除き、民間人の海外貿易や海上移動を禁じたものです。
したがって、明の前期で海外貿易はさほど振るいませんでした。これに変化が生じたのが、3代皇帝・永楽帝の治世です(在位1402~1424)。
永楽帝が大艦隊を作った理由
永楽帝は国力の充実を背景に、大艦隊を編成します。これが、南海諸国遠征の開始です。この遠征は、明の国力を周辺諸国に誇示し、朝貢貿易の相手国の拡大を目指したものです。
一連の南海諸国遠征により、東南アジアから東アフリカに至る30以上もの諸国が、明との貿易(朝貢貿易)のためこぞって来朝するようになります。下図(図31)を見てください。

マラッカ王国のように、明の艦隊の軍事力を背景に、周辺諸国に対抗して国家としての地位の確立を果たした勢力すら見受けられました(古代の日本が中国皇帝の金印を求めたことと同じ理屈です)。
(本原稿は『地図で学ぶ 世界史「再入門」』を一部抜粋・編集したものです)