許容範囲ではないかと思う行為でも
ものすごい剣幕で怒鳴りつけられた
現役時代の立ち居振る舞いは「問題行動」とまで言われた。行司の軍配に自ら物言いをつける。千秋楽の優勝インタビューで三本締めや万歳三唱を強行する。このへんまでは許容範囲ではないか。
三本締めについては「平成最後の場所だったし、良いことだと思って、ついサービス精神でやってしまった」と語っている。場所がすべて終わったときに、新弟子や若い力士たちが締めるというしきたりを白鵬は知らなかった。その後、理事長室に呼び出され、理事全員が集う中で八角理事長(元横綱・北勝海)からものすごい剣幕で怒鳴りつけられたという。
「問題行動」の中で、私が眉をひそめたのはエルボー打ちだ。
かちあげ(腕や肩で相手の上半身を突き上げて相手の上体を起こす技)とは似て非なるもので、どう考えても反則である。本来、相撲には相手を痛めつける技などない。かちあげも突っ張りも、相手の重心を上げるための手段だ。相撲は相手の重心を先に上げたほうが勝つ。
顔面を痛打するだけのエルボー打ちは、相手の重心を上げる技ではない。しかもサポーターをしている腕でのエルボー。奇妙である。サポーターは弱点をかばうためのもので、それを積極的に使うのはいかがなものか、と首をかしげたものだ。
取材では圧を感じさせない、
柔らかな応対が印象的だった
白鵬に取材することができた幸運に感謝したい。圧を感じさせない、柔らかな応対が印象的だった。
忘れられない逸話が二つある。いずれも食がらみのエピソードだ。
まず、入門時。
15歳の白鵬少年はひょろりと背は高いものの痩せていた。これでは稽古に耐えられないと、当時の宮城野親方(元幕内・竹葉山)は、
「腹いっぱい食べて、稽古を見て、あとは昼寝してなさい」
と指導した。
これがしみじみありがたかったと白鵬は笑った。
故郷を離れて来日し、わけのわからない未知の世界に飛び込んだ。周囲は巨漢ばかりで髪形も独特だ。言葉も通じない。待っているのは死ぬほどの猛稽古だと震えていた。心細いことこのうえなかっただろう。しかし決してくじけないぞと、少年なりに覚悟を決めたのだ。それが「食って、見て、寝ろ」である。相撲界はほんとうに良いところだと思った。
当時の宮城野部屋はありていに言って厳しい部屋ではなかった。「かわいがり(いじめ)」はなく、弟子たちは和気あいあいとしていた。やわらかな空気の中で白鵬少年は伸び伸びと体を大きくしていったのである。