年に一度、3日間の断食で
決まって13キロ減る
もう一つは日本国籍を取得した34歳のとき。プレジデント誌上でのインタビューである。「日本人になってほんとうにうれしい」
満面の笑みを浮かべる横綱。国籍取得によって年寄名跡が取得でき、部屋を開くことができる。長身痩躯のモンゴル人少年が、日本の「国技」の頂点に君臨し、ついには国籍を変えてその地に骨を埋める決意をした。そのときの表情の晴れやかさといったら……。
その際、現役横綱としての体調管理について聞いた。食事に十全に気を配っている。肉や魚をバランスよく食べる。抗酸化作用に優れている色の濃い野菜を欠かさず取る。
そして、年に一度の断食。
私は思わず声をあげてしまった。力士が断食なんて聞いたことがない。食べることも稽古のうちなのだ。
3日間、水しか取らない。内臓を休ませ、たまっていた毒素を排出するのだという。
「決まって13キロ減ります。気持ち良いですよ。細胞が若返ります」
まさに気持ち良さげに話す。私は三度のメシよりも飲食が好きなので、断食のなにがいいのか、理解するつもりはなかった。だが天下の横綱の穏やかな顔を目の当たりにして、これもなにかの縁だと人生初の3日間断食を試みたのである。ひもじかったが達成感はあった。95キロの体重が90キロまで落ちた。その後も「白鵬流断食」を数回行い、今は74キロ。横綱のおかげで心身軽やかだ。
男四十の英断が
なんだかうらやましい
さらに、絵に描いた餅となってしまったが、相撲部屋を銀座に開設すると言って話題になったこともあった。稽古場の壁をガラス張りにして、外国人観光客にアピールしたい、と。こういうところも調子づいていると批判されてしまうのだろう。
「あれは、そう言ったわけではないんです。どこに部屋を開くか、という話のときに、フランスならパリ、アメリカならニューヨークだから、日本なら銀座かなって言っただけ。それが独り歩きしてしまった」
こうして書きつづっていくと、序盤に触れたネガティブな出来事はどっかへ吹き飛んでしまうようだ。
彼が角界を去るのは寂しいし、協会への恨み言の一つも言いたくなるわけだが、男四十の英断がなんだかうらやましい。
「協会の外の立場から、その発展に貢献していく」
そう語っている。
角通が万歳して飛び上がるようなデカイことを、きっとやってくれる。私たちの想像を超えるようなことを。そう信じる。