「データ分析の民主化」で現場の課題を社員自身が解決。ヤマハ発動機の現場駆動型DX

 ヤマハ発動機は、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の要となるデジタル人材の育成を、「データ分析の民主化」をキーワードに進めている。同社のDX戦略を主導する経営戦略本部デジタル戦略部の新庄正己部長に、同社のDXの指針とデジタル人材の育成戦略について話を聞いた。

デジタルの専門家ではないのにDX推進を任された理由とは

 ヤマハ発動機は、日本楽器製造(現ヤマハ)から二輪車部門が1955年に分離・独立して誕生した。二輪車の世界大手であり、船外機やボートなどのマリン分野や産業用ロボット分野なども手掛ける。2024年12月期の連結売上高は2兆5762億円。海外での売り上げが約94%を占め、海外に100社以上のグループ企業を持つグローバル企業だ。

 DXをけん引する経営戦略本部の新庄正己デジタル戦略部長は、入社前からヤマハ発動機のモーターサイクルのファンだった。新卒で同社に入社すると、念願がかなってモーターサイクル車体設計を担当。その後、商品企画、調達、EV(電動車)戦略などさまざまな現場で経験を積み、2020年にデジタル戦略部長に就任した。その経歴から分かる通り、新庄部長は「デジタルの専門家」ではなかった。しかし、入社以来の横断的なキャリアと社内人脈から、「事業とデジタルの橋渡し役」を期待されての抜てきだった。

「データ分析の民主化」で現場の課題を社員自身が解決。ヤマハ発動機の現場駆動型DXヤマハ発動機
経営戦略本部 デジタル戦略部
新庄正己 部長

 同社は19年から、「Y-DX1」「Y-DX2」「Y-DX3」という3層構造のDX戦略を推進している(図1)。この三つは、いずれも企業成長に向けた全社的な戦略と位置付けられているが、それぞれ目的が異なる。

 Y-DX1(経営基盤改革)は、経営の高速化を目的とした経営基盤改革を進める取り組みだ。Y-DX2(今を強くする)は、同社が「デジタル重点」と定めるコネクテッド、デジタルマーケティング、バリューイノベーションファクトリー(ヤマハ発動機流スマートファクトリー)、データ分析の4領域を中核として、二輪車やマリン製品をはじめとする既存ビジネスを強化する。そしてY-DX3(未来を創る)では、既存の製品だけでなくアプリやサービスなどのデジタルチャネルを通じて顧客とつながることで、新しい顧客価値を生み出すことを目指す。この中でY-DX2とY-DX3を、新庄部長が率いる経営戦略本部デジタル戦略部が主導する。

 Y-DXの最終ゴールは「トップラインを伸ばしボトムラインを改善」して、「ブランド価値を高め、生涯にわたってヤマハファンを創造する」こと。この3層の戦略を個別ではなく同時並行に、かつ部門横断で推進することが、このゴールへとつながっている。

現場駆動型DXを支える「データ分析の民主化」

 ヤマハ発動機のDX推進は、後述するように「現場主導」を特徴とする。しかし、そこに至るまでには試行錯誤があった。同社のDX黎明期には、デジタル戦略部が現場に赴いて、デジタル活用を提案するアプローチを取っていた。しかし、現場の反応は思わしいものではなく、提案もほとんど採用されなかった。

 そこでDXを現場に浸透させるために、デジタル戦略部は大きな方向転換を行った。そして、それが「データ分析の民主化」へとつながっていく。次ページからその軌跡を詳しく紹介する。