30年以上前から始まったニトリのDX。鍵はITと現場業務双方に精通した社内のデジタル人材育成

家具・インテリア製造小売り大手のニトリホールディングスは、全社的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する一環として、デジタル人材育成にも力を入れている。同社デジタル推進の拠点となるニトリデジタルベースの社長を兼務する、武井直CIO(最高情報責任者)に、ニトリのDX戦略とデジタル人材育成の取り組みを聞いた。

DXの本質とは現場の業務を深く知ること

 家具・インテリア製造小売り大手のニトリホールディングス(以下、ニトリHD)は、2032年までに売上高3兆円という目標を掲げる。25年3月期の連結売上高は9289億円。グループのDXを統括する常務執行役員の武井直CIO(最高情報責任者)は、「AIの活用を含め、デジタル技術を取り入れていかなければ3兆円は達成できない。だからこそ、DXの必要性を経営トップから現場の管理職に至るまで認識しており、自分の部署の業務をどう変えていくべきなのか、全員が本気で考えている」と述べる。

30年以上前から始まったニトリのDX。鍵はITと現場業務双方に精通した社内のデジタル人材育成ニトリホールディングス
武井 直 常務執行役員 最高情報責任者(CIO)

 ニトリHDは、近年のDXの流行を背景にデジタル化にかじを切ったわけではない。同社IT部門は30年以上前から、業務も熟知した社員による内製に重点を置き、基幹システムをはじめとする多様な業務システムを構築してきた。このIT内製体制による迅速な開発こそが、製造から物流、IT開発、小売りまでを一貫して自社で行う、「製造物流IT小売業」と称する独自のビジネスモデルを可能にしてきたのだ。

 一方、ITへの取り組みの変化もある。かつては業務システムの大半を社内で設計・開発してきたが、事業が拡大していく中で、協力会社への外注やパッケージソフトを採用する割合が大きくなっているという。それでも、基幹システムの設計・運用は原則として自社で担い、社員がその構造を把握できる体制は維持している。「大切なことは、自社のシステムを自ら掌握し、ITに関する判断ができるノウハウと経験を持つこと」だと武井CIOは語る。

 そのためにはデジタル人材が不可欠となるが、社内で育成するにせよ、外部から採用するにせよ、多くの企業が人材不足に直面している。ニトリHDは一体、どのようにしてデジタル人材を確保し、DXを推進してきたのか。

 次ページからは、ニトリHD独自のデジタル人材育成体制について、詳しく紹介していく。