あなたは最近、仕事で「考える」ことが増えていませんか? 新しい商品やサービスの企画。販売や宣伝の立案。マネジメント、採用、組織運営の戦略など。従来の方法が通用しなくなったいま、あらゆる仕事で「新しく考える」ことが求められます。でも、朝から晩まで考え続けた結果、何も答えを得られずに1日が終わる――そんな経験のある人が多いのでは。
「その悩み、一瞬で解決できます」。そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に発想や思考の研修をしてきた石井力重氏です。古今東西の思考法や発想法を駆使して仕事の悩みを解決してきた石井氏ですが、なんとそのほとんどはAIで実行できたと言います。そのノウハウをまとめたのが、書籍『AIを使って考えるための全技術』。この記事では同書から、AIを使って「これまでとは異なる視点で考える」ための技法を紹介します。

仕事ができない人は「いつも同じ方法」で考える。では、優秀な人がやっている「AIを使って思考の視点を変える」方法とは?Photo: Adobe Stock

人の発想は、慣れ親しんだ方法から抜け出せない

 課題解決のアイデアを出すのは、登山に似ているところがあります。

 これから登頂しようとする山を遠くから眺めると、いろんな登山ルートが見えるわけです。アッチからもコッチからも攻められそうだなと。

 そしてルートを決めて登山道(お題)に充分に近づくと、具体的なことが見えてくる。足場が悪かったり、切り立った岩が目の前に現れたり。そこでリアルな障害を越えていくための方針(アイデア)が発想されます。砂利道に応じた歩き方、安全を確保するためのロープの張り方など。

 そしてめでたく登頂に成功(問題を解決)する。この登山に必要だったアイデアをやり切った感(出し尽くした感)に包まれます。

 さて、続けて他の山にもトライ。
 その山にも複数の登山ルートや攻め方があるはずですが、先ほど登った山と同じようなルート、方針で登ろうとしてしまいます。実際は違う山なので、うまくいかないこともありますが、それでもルートや方針は変えられなかったりするものです。

 これは人間の頭脳が持つ特性です。
 短期記憶が活発なうち(最初の山での経験をありありと覚えているうち)は、観点が固定化される傾向があります。その観点だけを深掘りしている状態で他の観点にズラそうとしても、活性化している観点に“引っ張られて”しまって、他の観点にうまくズラせない。「視野が狭くなる状態」になってしまうわけです。

 登山でたとえましたが、もちろんアイデア発想でも同じです。

発想を強制的にズラす発想法「6観点リスト」

 発想の視点を強制的にズラす、移行させる方法はないか。創造工学の研究者たちはもちろん考えました。

 そうして開発されたのが、様々な発想法に含まれている発想の切り口(フレーズ・観点)を抽出して、6つの大分類に分ける方法です。

 これを「6観点リスト」と称しています。
 6観点リストは、以下で構成されます。

 ・人
 ・モノ
 ・プロセス
 ・環境
 ・意味・価値
 ・五感で感じるもの

 大分類の下にはさらに具体的な観点が備わっています。観点が固定化してしまって自分では身動きが取れない状態になったら、意図的にこの6つの観点に立ち戻ってアイデアを考えてみましょう。直前に考えていた観点とは違う視点で考えることになり、角度の違う発想ができます。

AIの力で発想の視点をズラす技法「広い観点」

 思考をズラすための6つの観点があるとはいえ、人間は観点を広く保つことと、深く考えることの同時処理が苦手です。最初は広く考えていても、1つの観点で深く掘り下げていくと、当初の広い観点で考えることに戻るのが難しくなります。

 そこでAI。「6観点リスト」を明示的に指示し、考えてもらいます。それが技法「広い観点」です。
 登山のたとえで言うなら、今いる地点から、別ルートの出発点まで強制的に移動して再スタートするイメージ。視点、すなわち考える出発点が変わると、脳は自然と違う動きを始めてくれます。

 技法「広い観点」のプロンプトが、こちらです。

<AIへの指示文(プロンプト)>
 広くアイデアを出すには以下に示す6観点が役立ちます。カッコ内は観点の詳細です。これらを参考にして、〈アイデアを得たい対象を記入〉について多様なアイデアを生成してください。→人(主体、客体、単数、複数、立場、能力、市場、仕入れ先)、モノ(製品、素材、人以外の生き物)、プロセス(人とモノの動き、役割、相互作用)、環境(風土、取り巻く場、状況、時間、空間、構造)、意味・価値(意味、価値、感性、感情、金、情報、強み、機会、ビジョン、ゴール)、五感で感じるもの(色・形、音、におい、味、質感、触感、食感)

 プロンプトを見ていただくと、文章的にもっとこなれていても良いと思えるでしょうが、この武骨な聞き方によって安定度が高い回答を得られる実績があります。

アイデアが行き詰まったときの「打開策」として有効

 いつでも複数の視点から幅広く考えられるのはAIならでは。ぜひ使ってみてほしい技法です。

 とくに役立つのは、初期段階である程度いいアイデアが出てしまって、他のアイデアが浮かびにくいとき。
 他にも、独りで考えていてどうにもアイデアが出ない、行き詰まってしまったなど、これ以上の山登りが厳しいときにもぜひ。

 または、複数メンバーでアイデア出しをしているんだけど、「なんだかアイデアの幅が狭い」「観点が少ない」と感じたときにも有効です。AIのパワーを使って、別ルートから再スタートして山頂を目指しましょう。

(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。書籍では、こういった「AIを使って考える」ための56の方法を紹介しています)