「もう少し落ち着いたらAIを学ぼう」と考えている人が将来的に損してしまう納得の理由

「AIがすごいのはわかる。でも、実際の仕事では使えないよね――」。そう語る人は少なくない。AIを活用するどころか、“トレンド”として消費しているだけの人も多い。その一方で、「AIを使いこなす人」と「使えない人」の間で、能力や効率の差は見えないところでどんどん広がっている…。
この現実を、すでにAIを使いこなしている人たちはどう見ているのか。AIを「思考や発想」に活用するための書籍『AIを使って考えるための全技術』の発売を記念して、元起業家で、現在は大手ITベンチャー企業で生成AIの社内推進を担っているハヤカワ五味さんに話を聞いた（ダイヤモンド社書籍編集局）。

「生成AIを使わない人」は2タイプに分かれる

――AIを使わない人たちには、どんな人が多いのでしょうか？

　私も気になって、SNSや対面などで2、30人にヒアリングしてみたんです。すると大きく2つのタイプに分かれることがわかりました。

　1つは、「変化そのものがストレス」な人たち。
　新しいものを学ぶのは面倒だし、できれば今のままでいたい。そう思っている人たちですね。本人たちははっきり言いませんが、何かと理由をつけてAIを拒んでいる。その根っこには、「ただなんとなく嫌だ」という感情があるのではないでしょうか。

　そういう人ほど、「生成AIは倫理的にどうなのか」「人間らしさが失われるのでは」みたいに、道徳っぽい理屈を持ち出したりします。でもそれは、拒否感をよく聞く理屈に変換しているだけなんですよね。

　ただ、このタイプは「いざとなればやる人たち」でもあるんです。

　たとえば、「生成AIを使えないと評価が下がります」とか、「導入が必須です」といった空気になれば、しぶしぶでも動く。良くも悪くも流されやすいんです。だから、このタイプはそこまで問題ではない。

　むしろ厄介なのは、もう一方のタイプです。

本当に厄介なのは「様子を見ているタイプ」

　それが「今やっても損しそうだから様子を見ている」という人たち。

　生成AIって、正解が日々変わるじゃないですか。昨日のベストプラクティスが明日には古くなる。そういう世界だからこそ、「学んだことが無駄になるのが嫌だ」という心理が強く働いてしまう。

　だからこういう人たちは、「AIの進化が落ち着いてから、最短距離で学びたい」と考えているんです。

　これ、頭がいい人ほど陥りがちなんですよね。学校の勉強って正解が用意されていましたよね。だからAIに対しても「正解が出そろってから覚えればいい」「効率的にやりたい」って考えるクセがあるんですかね。

AIの話題が「落ち着いた」と感じた頃には、もう取り戻せない差がついている

　でも、現状の生成AIには“体系化された正解”なんてものはないと思っています。いつか進化が落ち着くということも当面はないでしょう。正解自体がつねにアップデートしていくので、教材を使って過去のこととして体系的に学ぶのって不可能なんじゃないかと思っています。

　だから、こっちのタイプの人の方が、生成AI推進担当としては難しい。だって、絶対に損はするので。

　ただそもそも、一度身につけたスキルや考え方は無駄にはなりません。なのに、「今、学んでもどうせ変わる」「だから損したくない」という考えに縛られて、ずっと動かない人が多くてもったいないなと思っちゃいます。

　むしろ、「落ち着いた」と感じる頃には、AIだとすら気づかずにAIを使っている世界が来ていると思うんですよね。

　つまり、そのときにはもうゲームセット。様子見していた人は完全に“置いていかれている”状態になっちゃいませんか？

「今すぐ始める」のが、一番損しない

　正直に言うと、生成AIを使い始めた直後は、たしかに自分でやるより効率も悪いし、よくわからないことだらけです。でも、それも全部“今だけの遠回り”なんです。

　逆に言えば、「損したくない」と思って様子見している人が一番損しているという皮肉な状況なんですよね。

　だから私は、みんなにこう伝えたいんです。

「今すぐ学ぶのが、いちばん得だよ」と。

（本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』に関連したインタビュー記事です）