
ドナルド・トランプ米大統領の関税政策は、米連邦準備制度理事会(FRB)に相反する二つの課題を突き付けている。関税は物価を押し上げるため、利下げの根拠が弱まる。一方で、信頼感と需要を損なうため、利下げの根拠が強まる。
これまでFRBは一つ目のリスクに焦点を当て、昨年12月以降、政策金利の誘導目標を4.25~4.5%に据え置いている。だがまもなく二つ目のリスクに向き合わざるを得なくなるかもしれない。さまざまなデータが示唆しているのは、関税導入後もインフレは懸念されていたより緩やかである一方、労働市場は悪化しているかもしれない、ということだ。
FRBは17・18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で行動を起こす必要があるわけではない。金利が今よりもまるまる1ポイント高く、失業率の上昇が景気後退の兆しを示していた昨年9月ほどの緊急性はない。関税の影響がより顕著になるのは数カ月後かもしれない。
だがFRB当局者は、リスクが変化していることを見通しと言葉で認めるべきだ。経済情勢はおおむねFRBが9カ月前に金融緩和に着手した時の予想通りに動いているため、自画自賛してもいいだろう。
関税はどこに?
米政府の5月の関税収入は2月と比べて約150億ドル(約2兆1600億円)増加した。これはモノの個人消費全体の約3%に相当する。一部の品目は値上がりしたが、これほど大幅ではない。衣料品や新車などは明らかに追加関税の対象であるにもかかわらず、5月に値下がりした。
これは謎だ。消費者が関税を払っていないとすれば、誰が払っているのだろう。少なくとも4月までは、外国の生産者ではない。燃料を除く輸入価格は上昇していた。小売業者や卸売業者でないのも明らかだ。12日に発表された卸売物価指数(PPI)によると、業者の利益率は4月に痛手を被ったものの、5月は持ち直した。