「60歳以降の仕事人生にも、ガイドが必要だ」――そう語るのは、リクルートワークス研究所の坂本貴志さん。高齢期の就労・賃金を専門とする坂本さんが、65歳以上・640万人のデータを分析し、まとめた書籍が『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』です。
定年退職=引退だった時代は終わり、いまや「定年後の仕事探し」を自分自身で行う時代がやってきました。本書では、実際に働いている人のデータを参照しながら、19カテゴリ、100種類の仕事を紹介。現役時代とは全く違う仕事選びのコツについても解説しています。この連載では、本書より一部を抜粋・編集して掲載します。今回は、実際に定年後の仕事をしている方のインタビューを掲載します。

【定年後の仕事】85歳・女性・月収16万円。未経験から80歳でアパレル販売スタッフになって大変だったこととは?Photo: Adobe Stock

イトウ アヤコさん(仮名)
85歳女性 福岡県
年金8~10万円、勤労収入4~6万円。合計月収12~16万円。

配偶者を亡くし、80歳で洋服販売スタッフとして働き始める

 現在85歳。幅広い年齢層に支持される洋服ブランドの店舗で販売スタッフとして週に2回働いています。

 高齢なので勤務時間は融通していただいて、11時~16時と短めです。出勤日も以前は週3日でしたが、80代半ばになった今は週2日に減らしていただいています。

 応募したのは80歳のとき。長年連れ添った夫を亡くし「自分自身でなにかやり始めなくちゃいけないな」という思いがありました。そんなとき、愛読する雑誌の折り込みページに「年齢は問いません」と書かれた求人広告を見つけ、心が動いたのが応募したきっかけです。

 仕事内容は接客がほとんどです。お洋服の販売は初めてでしたが、もともと服が好きで洋裁の知識も持ち合わせていたので苦になりませんでした。

 むしろお客様とファッションのお話をするのが楽しくて。いらしたお客様には商品をご案内し、仕立てに関することやアフターサービスについてお伝えしたり、「お似合いになります」「あちらのお洋服よりこちらのほうがいいかもしれませんね」など、私自身の考えをお伝えしたりすることもあります。

 レジ業務は担当していないので、購入を決められた際はレジカウンターへのご案内だけ行っています。

専門知識より「洋服に興味があるかどうか」が大事

 接客業といえばクレームや理不尽なことが思い浮かびますが、私は勤務時間が短いせいか、幸いトラブルや嫌な思いを経験することはあまりありませんでした。

 立ち仕事も慣れれば問題なくできています。同僚の方もファッション好きで趣味が似ているので、一緒に食事をしたり、美術館に行ったりと楽しい交流もありました。

 唯一大変なことと言えば、シーズンごとに展開するお洋服が変わるので高齢になるとだんだんとついていくのが難しくなることですね。小さな頃から洋服に関心があり、洋裁学校を卒業して、子どもが手を離れたあとは週に1~2回洋裁教室で講師として働いていました。

 そのあとも70歳頃まで知人の経営する服飾雑貨店で仕入れや接客を手伝っていたので、ファッションに関する知識は人並み以上にあると思います。ですが、専門知識がないと洋服の販売員ができないというわけではありません。必要なのは着ることが好きで、ファッションに興味があること。自分で店舗のお洋服を見て、わからないことは質問して内容を把握していけば無理なくできますから。

 反対に「服はなんでもいい」という方にとっては向かないお仕事かもしれませんね。やはり「服に興味を持っている」ということが一番大事だと思います。