玉音放送を聞く
蘭子と八木(妻夫木聡)の細かな演技

 そして、8月15日、終戦。

 高知で、中国で玉音放送を聞く人たち。嵩(北村匠海)たちや朝田家は皆それぞれ何かをかみ締めているようだ。とくに「やっと終わったで豪ちゃん」と天を仰ぐ蘭子と、八木(妻夫木聡)がほんの少し目と顔を動かしたのが印象的だった。

 こうして、長い戦争は終わった。「正義は逆転する。じゃあ、決して引っくり返らない正義ってなんだろう。 おなかをすかせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」というテーマを描くために、戦争編に時間をかける必要があったと作り手は語ってきた。玉音放送が流れる時間も長かった気がする。

 そしてラストは、のぶが呆然と焼け野原を見つめる表情で終わる。のぶはこの灰色の光景に何を思ったのか。

 振り返ると、『あんぱん』では第47回が開戦、第60回で終戦を迎えた。戦争編は14回。ただ、第28回、日中戦争の発端となる盧溝橋事件から書いているので、そこから入れたら、33回と長い。

 最近の朝ドラではどうだったか比較してみよう。

『虎に翼』(2024年度前期)は第35回〜第41回で7回。戦時中は短く、第41回の終戦はわずか3分で終了したほどだ。その代わり戦後を長く描き、原爆裁判まで取り上げた。

『ブギウギ』(23年度後期)は第47回〜第67回と21回で、単純に開戦から終戦までとしたら『あんぱん』より長い。弟の死から洋楽を禁止され、唯一の戦時歌謡を歌うところまでたっぷり描いた。

『カムカムエヴリバディ』(21年度後期)は第10回〜第18回で9回。3代ヒロインによる日本の100年を描く企画だったため、戦争を体験した初代ヒロインのエピソードは全112回のうち3分の1(38回)に当たる。そのなかの9回と思うと長いほうかもしれない。

『あんぱん』と同じく、登場人物の戦場体験を描いた『エール』(20年度前期)は第76回〜第90回の15回だった。

 のぶ(今田美桜)が立ち尽くした終戦の朝…なぜ『あんぱん』は“33回”も戦争を描いたのか?【第60回レビュー】