標準化後の運用費が増加すると回答した
中核市自治体の割合

コスト削減どころか税金投入?自治体システム標準化で経費膨張、成熟度が低く現場で悲鳴

 今年1月末、全国62の中核市で構成される中核市市長会が「自治体業務システムの標準化」(業務システムを全国統一仕様にする国の施策)に関する緊急要望を発表し、関係者に衝撃が走った。2025年度末の期限まで残り1年余りとなる中、運用経費が以前より増大するという見通しが示されたのだ。

 中核市62市のうち59市から標準化前後の運用費の比率について回答があり、費用が「減少する」と回答したのはわずか2自治体(3%)、他の57自治体(97%)は「増大する」と回答した。内訳は、2倍未満が27自治体(46%)、2~3倍が17自治体(29%)、3倍超が13自治体(22%)だ。

 政府の基本方針では「移行後のシステム運用経費について、2018年度比で少なくとも3割の削減を目指す」と明記されていた。3割の削減は難しいとしても、まさか増大するとは、多くの関係者にとって想定外だったのだ。増大した理由には、標準仕様書の要件の増加によるシステムの肥大化と、ガバメントクラウド利用料の増加が挙げられている。

 デジタル庁では、これまでもガバメントクラウドによるコスト増について分析し、対策も公表している。しかし、システムの肥大化については想定外だったようで、5月から中核市市長会などへの個別ヒアリングを実施した。

 例えば福島市では、標準仕様書の要件が平均で1.2倍、一部業務では3倍に増えた結果、運用コストが従来比で3.7倍にもなっている。政令指定都市を除けば最大規模の中核市でこの状況なら、一般の自治体ではコスト負担がより重荷になるのではないか。

 5月28日には東京都が総務大臣に「地方公共団体の基幹業務システムの標準化に関する共同要請」を提出し、「都内自治体の運用経費は、(中略)移行前と比べて全体で約1.6倍に増大する見込み」として対策を求めた。費用削減が困難な場合は財政措置も要請している。

 しかし、財政措置の財源は税金であり、コスト削減のはずの標準化で新たに税金を投入するとなれば、国民が納得しないだろう。かつてのオープンシステム化のように、技術の方向性が正しくても、一定の成熟度に達しなければ成果は出にくい。国民に過度な負担を強いることのないよう、慎重なかじ取りが望まれる。

(行政システム顧問 蓼科情報主任研究員 榎並利博)