半導体の関税リスク、投資家は何を見落としているのかPhoto:Bloomberg/gettyimages

 人工知能(AI)ブームは今年、米株式市場で半導体銘柄を押し上げ、業界大手のエヌビディアは 時価総額で世界最大の上場企業 になった。だが先行きには不透明感が強まっている。これには、投資家がほとんど気に留めていないように見える要因、つまり「関税」が関係している。

 ドナルド・トランプ米大統領は今年初めに就任すると、 半導体の輸入品に関税をかける と脅し、すぐに医薬品や銅、木材と同様に半導体の貿易に関する調査を開始した。こうした調査は関税発動につながる可能性が高い。トランプ氏はすでに銅に50%の関税を課すと表明しており、次は医薬品と半導体になると示唆している。

 投資家はさほど深刻には受け止めていない。半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数は1月のトランプ氏就任を受けて下落したものの、その後は上昇に転じた。半導体輸入に関する調査をトランプ政権が4月に発表して以降に同指数は43%上昇しており、過去最高値に迫る勢いとなっている。同指数の構成銘柄の予想株価収益率(PER)は同期間に約24倍から30倍に上昇した。

 投資家は半導体業界と医薬品業界について、関税に適応し、一部の生産を米国内に回帰させるための時間を与えられそうだとして、ある程度楽観視している。医薬品に対しては、トランプ氏は1年程度の猶予期間を設けることを示唆している。この期間は、米国内に一定の生産能力を維持してきた多くの業界大手にとってはサプライチェーン(供給網)を再編する時間として十分かもしれない。

 半導体については話がもう少し複雑だ。例えば、半導体は生産のさまざまな段階で複数の国を行き来することが多い。ある半導体が米アリゾナ州で作られたとしても、最終的な段階に至るまでに中国かマレーシアに送られて検査やパッケージングが行われ、さらにiPhone(アイフォーン)に組み込まれた上で、改めて米国に輸出されるかもしれない。

 一方、半導体生産の大規模な米国回帰は、たとえインセンティブがあったとしても容易ではない。